第3期生(2011年3月卒業)

  

○高野慧(大学院社会科学研究科経営学専攻修士論文)「組織社会化における秘密の影響力―能動的組織社会化モデルの拡張に向けて-」
[アブストラクト]

○天内崇「創発的ネットワークがもたらす援助行動―援助を促進する繋がりの形とは」
[アブストラクト]
援助とは「他者のために自発的に行う行動」であり、組織や社会の状況を向上させる為に必要な要素のひとつである。本論文では、援助行動、信頼、ネットワーク、ソーシャル・キャピタルなどの先行研究に基づき、多数の人または多様な人と繋がりを持つ「創発的ネットワーク」の持ち主ほど、他人に対して援助行動を取る傾向が強いという仮説を立て、質問紙調査によってその仮説の検証を試みた。145件のサンプルを学生と社会人に分けて分析を行った結果、仮説は学生では支持されず、社会人では概ね支持されるという異なった結論が導き出された。このことから、社会に出てからは人と繋がりの多様性がより大きな意味を持つことがわかった。

○浦野睦「2・6・2の法則の解明~集団力学からのアプローチ~」
[アブストラクト]
組織における集団の活動において、2・6・2の法則と呼ばれる現象が起きているといわれることがある。この2・6・2の法則とは、組織において集団で活動をする際に、2割の人は積極的に組織に貢献する、6割の人は、積極的に組織に貢献する人々に引っ張られ、ある程度組織に貢献する、残りの2割の人は積極的な貢献をせず、他の8割の人が生み出した貢献に便乗し、あたかも自らも貢献したかのように組織に存在し、組織から与えられる誘因を享受しているというものである。このような法則が実際に起こっているとしたら、組織にとっては損失が発生していると考えられる。しかし、この法則はあくまで経験則であり、その真偽は明らかにされていない。そこで本論文では、この2・6・2の法則の真偽を明らかにすることを目的として、実験による検証を行った。その結果、2・6・2の法則が実際に起こっていることが明らかにされた。また、その要因として、社会的手抜きと社会的補償、衡平理論の影響が考えられることも同時に実証された。

○小川奏「チームのパフォーマンスにメンバー間の親しさが与える影響~プロセス・ロス、プロセス・ゲインの発生に着目して~」
[アブストラクト]
本論文は、チームのメンバー同士の親しさが、チームのパフォーマンスに与える影響について考察したものである。特にグループ・ダイナミクス研究におけるプロセス・ロスの概念に着目し、プロセス・ゲインの概念も補完的に用いながら検証を行った。
ここでは被験者同士の親しさに違いをもたせた実験によって、実証を試みた。その結果、メンバー同士の親しさはチームのパフォーマンスに影響することが確認された。チームの親しさのレベルが高いほどプロセス・ロスの損失率は減少し、加算的タスクにおけるパフォーマンスは高くなる傾向にあることが実証され、また、親しい間柄のチームにおいてもプロセス・ロスは発生すること、チームの親しさのレベルが高くなるほどプロセス・ロスは軽減されプロセス・ゲインが発生しやすくなることも実証された。また、こうした現象に最も影響を与えるのは「遠慮」によるプロセス・ロスであり、社会的手抜きはほとんど影響を与えていないこと、また、プロセス・ゲインは大きな影響を与えていないことが分かった。

○佐藤晋平「実践コミュニティ・ラーニングにおける創造的要素」
[アブストラクト]
本論は、創造的な実践コミュニティにおいて、どのような学習や連結が行われ、またそれを促すグループの創造的要素にどのような特徴があるのかを調査し、それらの関係性を考察したものである。その結果、対話やコミュニティ化といった組織開発の手法やマインドの実践学習をテーマとする実践コミュニティにおいて、心理的安全や、適切なタイミングでの全体の意見共有、場の流れといった要素をメンバーが重要視することが、深い感情と知識レベルでの学習と連結に影響を与えることが分かった。

○下川泰輝「組織における革新的行動の発現と人とのつながり」
[アブストラクト]
本論文では、組織における自発的な行動、とりわけ組織全体の行動や仕組み・プロセスに影響を与えるような革新的な問題提起や行動の発現に、人のつながりが与える影響を明らかにしようとするものである。このような問いを立てた理由は、昨今の企業に求められている組織や人のあり方が、世界的な不況や新興国との開発・市場競争の激化で変化してきていることがあげられる。企業組織は、たえず自己変革し続けなければ生きていくことができなくなっている。そのような状況において重要になってくるのは人的・社会的な資本であると考えられる。製品技術やサービスは次々に模倣されゆくが、それらをうみだす「ひと」やその「つながり」を模倣することはできないからだ。成員が組織の活性化や改善のための革新行動に至る、思い・アイデア・問題意識を表出化させるため、人の行為を決定するともいわれる個人ネットワークに着目する。ネットワークの様々な特性や組織における革新的行動を阻む現象を整理し、大学生に対する質問紙調査によりその実態を明らかにする。これにより知識創造・組織変革の発端となる一つの側面を明らかにすることに本研究の意義があると考えている。

○浜崎成見「「共有メンタルモデルのマクロモデル~予言の自己成就と限界質量モデルの見地から問い直す~」
[アブストラクト]
優れたチームワークの育成を目的としたチームワーク研究において、チームワークの心理的要素の中心をなす概念として共有メンタルモデルに注目が集まっている。共有メンタルモデルとは、メンバー間で認知や感情・行動の共有がなされる現象の一つである。本研究では共有メンタルモデルについての先行研究を整理し、既存のメンタルモデルの発達プロセスにおけるマクロ的視点の不足を指摘するとともに、認識論的観点から共有メンタルモデルを捉えなおす必要性について論じている。これらの批判点と既存モデルの長所を踏まえ、モデルの拡張に向けて他者の心的状態の理解、およびミクロとマクロの橋渡し的役割をもつ社会学における予言の自己成就効果と限界質量モデルの考え方を援用している。その結論として、他者とメンタルモデルの共有がなされているという状況の規定をなす人数がある一定割合を超えることで、メンタルモデルについての予測と実際の共有度合いとのズレが相互作用を通じて現実化しメンタルモデルの共有がなされるプロセスの存在を示唆するモデルを提示した。

○福田雄一郎「複数の所属集団が個人に与える影響 ~モチベーション・キャリア志向の観点から~」
[アブストラクト]
人は様々な集団、組織に属している。組織論の研究では組織間に関するもの、個人と集団の1対1の関係に関するものなどが多いが、個人と集団の1対複数の関係に関するものは少ない。人と集団の関係の内、この論文ではより現実的に個人が複数の集団に属している状況を想定し、集団への所属の仕方が個人にどのような影響を与えているのかに注目している。そこで、個人が所属していると実感している集団の数や集団への所属意識の強さ、集団への参加頻度といった属性が、その個人のモチベーションや、キャリア志向にどういった影響を与えているのかという問いに対して仮説を立て、研究を行った。
アンケート調査による分析の結果、所属集団の数が増えると現状満足感や自己肯定感といったモチベーションが増加すること、所属意識の強さが増えることでモチベーションとキャリア志向の両方が増加することが明らかとなった。また、モチベーションを増加させる所属集団数には限界値が存在し、その限界値となる所属集団数は4ないしは5であるということを示した。

○本庄真也「組織における自発的行動の浸透過程―他者の行動が与える個人の行動への影響について」
[アブストラクト]
組織の現状をより向上させ、さらにイノベーションの源泉となる要素を生み出すものとして、今従業員の自発的行動が注目されている。本論では、自発的行動が個人の行動改善を中心とする「組織市民行動」、他者や組織への働きかけを伴う「経営革新促進行動」の2種類に分類できると定義した。その上で、他者の行動が個人に与える影響を考察することで、自発的行動の組織への浸透プロセスの解明を試みた。そこから、自発的行動がそれぞれ個人や環境の特性だけでなく、集団内の他者の自発的行動そのものが規定要因になりうるのではないかとの仮説を立て、その立証を行った。質問紙調査の結果、経営革新促進行動を行う個人は、周囲に経営革新促進行動を行う上司や親密な組織内の他者が存在していること、経営革新促進行動を行う個人は何らかの形で他者の行動そのものに影響を受けているという示唆を得ることができた。