第4期生(2012年3月卒業)

 

○井澤亮一「目標の変化とパフォーマンスの関係性―個人の高いパフォーマンスを維持するためには―」
[アブストラクト]
目標が明確であればあるほど、個人のパフォーマンスは高くなるということはよく言われていることである。そこで、その明確性が変化した場合にパフォーマンスにどのような影響が生じるのかを考察したのが、本論文である。今回は被験者を4つのグループに分けて実験を2回行い、1回目と2回目で目標の明確性を変化させてパフォーマンスの変化をみた。実験の結果、不明確な目標から明確な目標へと変化した場合、パフォーマンスの上昇が見られた。しかし、分析の結果、目標が変化することとパフォーマンスの間に影響性を見出すことはできず、目標の明確性自体が個人のパフォーマンスに影響を与えているという結論に至った。

○亀谷史織「チーム・エラーの対処行動とチームの関係性~優れたパフォーマンスを行うためのチーム体制~」
[アブストラクト]
チーム・エラーの回避はチームの優れたパフォーマンスを促進すると考えられている。本論文では先行研究を基に、チーム・エラーの発生メカニズムの三段階モデルのうち、「指摘の失敗」に着目した。チームワークの要素であるチーム・プロセスやチーム内のコミュニケーション、またはチームの特性やチームメンバーの対人関係が、どのようにチーム内でミスをしている人に対する対処行動に影響を及ぼすのかを質問紙調査から分析を行った。学生と社会人に分け、ミスをしている人との地位関係やミスの重大性、チームの特性より仮説を検証した。その結果、相互依存性が強いほど、またはチーム内コミュニケーションの頻度が多いほど、ミスをしている人に対して直接指摘する行動をとることが実証された。また、社会人ではチーム・アイデンティティが強いほど直接指摘する行動をとらない傾向にあり、学生の場合は強いほど直接指摘する行動をとることが判明した。さらに全体的な分析結果より、対処行動はチーム内の権威勾配による対人関係の問題に大きく左右されていた。本論文では、その改善策として協働関係または信頼関係のあるチーム体制やメンバー同士のサポート体制のあるチームを築く必要があると考える。

○小林実朗 「集団における革新的逸脱行動の発生要因~高凝集性集団において逸脱行動を発生させるために~」
[アブストラクト]
本論文は集団において有効性のある逸脱行動は変革をもたらすと、集団行動・集団心理学に関する先行研究から考察し、そのような逸脱行動を新しい概念である「革新的逸脱行動」と定義し、それを引き起こす鍵となるであろう組織を背負う意識という概念との関係性を調査したものである。まず先行研究から、高凝集性集団における同調行動の危険性と、逸脱行動の重要性を説明する。さらにそのような逸脱行動と大きな関係がありそうな組織を背負う意識の説明を行い、二つの間にどのような繋がりがあるかを考察する。次に本論文で扱う逸脱行動を、進取的行動と経営革新促進行動に類似するものと説明し、新たに革新的逸脱行動と提唱する。続いて組織を背負う意識を持っていることが革新的逸脱行動の発生要因になるという仮説を立て、アンケート調査と集団実験の二つの方法をもって検証した。結果は組織を背負う意識は革新的逸脱行動を発生させる大きな要因となるが、他人から組織を背負う意識を植えつけられた場合には革新的逸脱行動にはつながらず、むしろ集団にとってマイナスにもなり得るというものになった。最後にこれらの結果を踏まえて、集団において革新的逸脱行動を発生させやすいモデルを構築し、その詳細について説明している。

○紺野友里絵「非コア人材の組織アイデンティフィケーション~組織アイデンティフィケーションに影響を与える要因とは~」
[アブストラクト]
戦後から長く続いてきた雇用体系が経済環境の変化により見直され、辺縁的な仕事を担う非コア人材が増加している。しかし非コア人材はその雇用形態上の特徴から、組織への貢献意欲や帰属意識の低下が不安視されている。そこで本論文では情緒的・認知的な側面から帰属意識を捉える組織アイデンティフィケーション、組織ディスアイデンティフィケーションからこの問題を検討し、非コア人材のそれらにはどのような要因が影響しているのかということを、実証研究を通し明らかにしていく。
結果として組織アイデンティフィケーションには自己の成長や能力向上がはかれることによる仕事満足、組織のワーク・ライフ・バランスへの配慮に対する満足感、組織ディスアイデンティフィケーションには上司満足、仕事満足が影響していることが明らかとなった。
この研究により、非コア人材をどう管理していくかということだけではなく、まだまだ研究が進められていない、組織アイデンティフィケーション論における新しい側面を見出すことができたと考えている。

○鈴木敬人「リーダーの特性・行動がフォロワーの貢献行動に与える影響について―模範型フォロワー育成のために―」
[アブストラクト]
本論文では、リーダーシップの最大の役割を「フォロワーを惹きつけ、その力を最大限に引き出す」ということに焦点を定め、先行研究であるPM理論、フォロワータイプ分類などの尺度を用いて、フォロワーに対してどのような行動をするリーダー、どのような特性を持つリーダーが貢献力・クリティカルシンキング共に優れた模範型フォロワーを生み出すことができるのか、さらには、現実のリーダーとフォロワーが抱く理想のリーダー像のミスマッチがフォロワーの行動にどのような影響を及ぼすのかも明らかにしていくことにした。
仮説を立て、調査を行った結果、「フォロワーのクリティカルシンキング、貢献行動を促進するにはリーダーの集団維持行動が最も重要である」ということ、「権威や叱責によるリーダーの影響力行使がフォロワーの貢献行動を損なわせる」ということ、「現実のリーダーの部下配慮特性が理想のリーダー像を上回っていると、フォロワーのクリティカルシンキングに良い影響を及ぼす」ということなどを明らかにし、フォロワーの行動の質や量を規定する様々な要因を提示することができた。

○高橋真寿美「経営革新促進行動および組織市民行動の規定因―上司との関係性が従業員の自発的行動に及ぼす影響―」
[アブストラクト]
変化の激しい現代の社会環境において、経営革新の源泉として従業員の自発的行動が注目を集めている。本論文は、自発的行動の中でも組織の変革に寄与する「経営革新促進行動」および、組織の有効性を高める「組織市民行動」に着目し、その規定因を明らかにすることを目的としている。
本論では、規定因として「上司との関係性」に着目し、「上司との良好な関係性は従業員の自発的行動を促進する」という仮説を検証するために質問紙調査を行った。その結果、仮説は一部指示され、「上司との関係性」は間接的に「経営革新促進行動」および「組織市民行動」を促進することが明らかになった。また、「経営革新促進行動」を規定する要因として「LMX関係」および「職務満足」を見出すことができた。

○谷彩加「目標を他者に公開することの効果~目標の設定と課題の遂行能力への影響~」
[アブストラクト]
 目標の他者への公開は、目標の設定や課題遂行能力にどのような影響を与えるかを研究した。本論ではまず目標設定理論や社会心理学の先行研究を概観した。それをもとに仮説を立て、検証のための実験を行った。実験は、グループで課題を行う際に、目標をグループ内に公開する場合としない場合で結果に違いがあるかを調べるものである。
これらの研究を行った結果、目標を公開することにより目標は低めに設定するが、課題の遂行能力は高まるという影響が出ることがわかった。その理由としては、目標公開の際は相手への謙遜の気持ちが起こり目標を控えめに言うこと、他者の目標を知ることで自分の能力への認識が上がることなどが挙げられる。またその影響は、関係性の重要度が高い他者に公開する場合により強くなるという結果が出た。その理由としては、謙遜も自己の認識も、親しい相手に対しての方が強く表れることなどが挙げられる。

○中村順「ネットワークの認知度合いが自己効力感に与える影響~ネットワーク中心性の概念および社会比較過程説からの考察~」
[アブストラクト]
現在、若者の自信喪失が社会問題として提起されている。本論文では、モティベーション分野の自信に関わる概念として「自己効力感」に着目し、個人の所属組織内での対人関係(ネットワーク内での立ち位置の認知具合)も何らかの影響を与えているのではないかと仮定し、検証を行った。立ち位置およびその認知具合を測定するために、ネットワーク理論の中心性および社会比較過程説の概念を参考にし、独自に質問項目を作成し、アンケート調査を行った結果、組織内のメンバーと比べて、次数中心性が高い(組織内に親密なメンバーが多い)と認識していることは、個人の自己効力感、および自己肯定感に正の影響を及ぼすことが明らかになった。また、媒介中心性が高い(本論文では媒介能力に秀でているという意)と認識していることは課題解決に対する効力感を発揮するという結論を得られた。また、今回、ネットワーク中心性の測定のための試みを行うことができたことも成果の一つである。

○山岡美沙樹「電子コミュニケーションにおける集団意思決定の有効性 ~個別送信と一斉送信に対する受信者の返信行動の違い~」
[アブストラクト]
パーソナルコンピュータの普及以降、仕事や教育、人間関係においても、電子コミュニケーションは急速に発展している。しかし電子コミュニケーションについては対面との比較研究は数多いものの、その利用方法や利用条件による研究はまだ少ない。そこで本研究は電子コミュニケーション内の利用方法に着目し、所属する集団において、連絡を個別に送信する場合と一斉に送信する場合で、受信者の返信の早さに差があるかを検証した。その結果、本調査で想定した如何なる条件下でも、個別送信は一斉送信よりも返信が早いことが示された。また他者の返信状況がわかるか否かによっても、返信の早さに差が生じることが明らかになった。本研究は、集団としての意見集約や迅速な意思決定を行いたい場合には、集団内のメンバーに個別に送信し、すでに返信した人数や名前のみを公開するとより効果的であることを示唆している。