第1期生(2009年3月卒業)

 

○後藤謙太「日本における成果主義―その普及の理由」
[アブストラクト]
 成果主義とは、そもそもは純粋に結果のみを評価する制度だった。しかしこのような制度は、集団行動や協調性を重視する日本人の価値観とは正反対のものだ。それを踏まえて私は、プロセスや組織貢献度など、組織を考慮した新しい評価指標を持った成果主義が、日本人の価値観に合った「日本型成果主義」だとしたい。なぜそのような認識に至ったか、それは日本における成果主義の普及の経緯を見ていくと明らかになる。
日本での成果主義は、富士通が目標管理制度を導入したところから端を発する。当初は日本でも、結果のみを評価する、純粋な成果主義が採用されていた。そして時代が流れ、成果主義はさらに多くの業界で採用されるに至り、それにつれて議論も盛り上がる。しかし成果主義を先行導入した企業はその後、個人主義の蔓延やそれに起因する職場環境の悪化に悩まされた。さらには事件や不祥事を起こす企業も存在し、結果的に成果主義に関する議論の流れは収束していった。しかし現在でも、年功序列に戻ることはほとんどなく、もともとの成果主義を改善して、プロセスや組織貢献度を考慮した新しい成果主義――「日本型成果主義」が、普及の道を歩んでいる。
 ではなぜ、価値観の異なる日本で成果主義が普及したのか。それは、「時代背景」と「制度化」の2つに起因すると私は考える。「失われた10年」といわれた時期と、成果主義が注目を浴びた時代はほぼ一致する。そこから、人件費に苦慮し、抜本的な改革ニーズを持っていた企業と、「ファッション仕掛人」と呼ばれる経営コンサルタントやマスコミが相互作用を起こして、「成果主義は特効薬」だとする妄信が広まった、というのが「時代背景」に起因する理由。そして、成果主義はその普及の道をたどる中で、実業界における正当性を獲得し、それが「成果主義はもはや常識」という制度的な圧力となって各企業の同型化が進んだ結果普及した、というのが「制度化」に起因する理由である。この2つの要因が重なり合った結果、現在でも年功序列に戻ることなく、8割以上の企業が成果主義を何らかの形で採用しているのである。

○田端和弘「モチベーション・ネットワーキング―モチベーションマネージメントにおける人間関係とインフォーマルなネットワークの持つ可能性」
[アブストラクト]
本論文では、モチベーションマネージメントにおける人間関係改善の重要性を実証する。
そのために、現在企業に勤める正社員を対象としたアンケート調査を行った。相関分析、重回帰分析の結果、①上司・部下間、同僚間のフォーマルなネットワークにおいて、コミュニケーションがある場合にモチベーションに相互作用が起こること②部門を超えたインフォーマルなネットワークにおいてもコミュニケーションがある場合にモチベーションに相互作用が起こること③インフォーマルなネットワークにおいては正の相互作用が起こる確率が負の相互作用が起こる確率よりも非常に高いこと、がわかった。以上の結果により、人間関係改善はモチベーションマネージメントにおいて重要な役割を果たすことが実証された。最後に、モチベーションマネージメントの具体策として、①組織の中で構成員一人一人がインフォーマルなネットワーク内に多くの紐帯を持つ②フォーマル、インフォーマル問わず組織内での人間関係を改善し、コミュニケーションを活発化させる。この二つの目的を達成できる制度や施策を打ち出していくこと非常に有効であることを主張する。

○中村さくら「サブリーダーの存在意義―長・副関係が及ぼす影響」
[アブストラクト]
 本論文では、リーダーシップ論の中でもあまり注目されることの無い「サブリーダー」をテーマとし、その存在意義に迫ることを目的とした。その中で、サブリーダーに特有の役割、またサブリーダーとリーダーの関係に注目し、それらが部署のパフォーマンスに影響するのではないか、という仮説を立て、調査アンケートを行った。調査の結果、長副の良好な関係や、リーダー、サブリーダーのリーダー行動が、彼らの所属部署に対しプラスの影響を与えていることが判明し、仮説を検証することができた。


○平野洋輔「フリーライダーの本質解明とその抑制対策―コスト負担と利益享受がフリーライダーに与える影響」
[アブストラクト]
 フリーライダーは、成員の行動によって生み出されている組織の集合財を、貢献者から搾取し、組織の非効率を助長している。彼らの搾取行動を止めなければ、今日で求められているスリムな組織設計が実現しない。それ以上にフリーライダーを放っておくと、成員へ非協力が連鎖してしまう可能性がある。大きな要因として、外部性が排除できない組織環境が存在していると突き止めた。その環境は、相互依存関係によって生み出される社会的ジレンマという、現代の世の中では逃れることのできない産物である。このような環境下においては、誰しもがなりうるフリーライダー予備軍が大半を占めている。彼らが貢献行動をするか搾取行動をするかによって、フリーライダーの増減を左右している。
次に先行研究を考察すると、組織間移動はフリーライダーを排除できず、むしろ貢献者を流出してしまう結果となった。そのためにも組織内のフリーライダー対策を講ずる必要があり、コスト負担をいかに平準化し、1人当たりのコストを小さくするかということが大事である。小さくなったコストをフリーライダーにも負担させ、それを負担することで集合財に与ることのできる環境を作り出す。コスト負担の施策として、ゆるい分業、規範、サンクション、アダプトプログラムの応用を記載する。
一方、1人当たりの利益をあげようとしても、成員の欲求を単に満たすだけでは何も解決せず、親和動機からのアプローチもほぼ無意味である。
最後にコスト負担と利益享受を融合させると、必ずしも利益がコストを上回ることはなく、それによって引き起こされる非協力スパイラルを、社会的感受性の閾値モデルで再考すると、フリーライド予備軍への対策をすることにより、連鎖を止めることができると明らかにする。またコスト調整役の設置を提唱し、コスト負担を組織内でコントロールすることで、得られる差益を大きくし、貢献行動を促す結果につなげたい。

○松尾雄介「ネットワーク格差社会-ハブによって格差を乗り越える-」
[アブストラクト]
本論文は社会ネットワークにおける格差-ネットワーク格差-について論じたものである。人は人間関係という社会ネットワークを形成して生活しており、私たちの生活とネットワークは切り離すことができないものである。これまで平等や平均を重視してきた日本社会であるが、所得格差や雇用格差「格差」が発生し、それはネットワークについてもいえることである。現代の日本社会は能力重視や転職志向などの新しいシステムに移行しつつあり、個人の能力が重視されるようになってきた。ネットワークにおいても、それを活用する能力が高い人はネットワークから恩恵を受け、活用しない人との格差は拡大する傾向にある。しかしネットワーク格差は「誰でも乗り越えることができる」と私は主張する。ネットワーク格差を乗り越えるためには自分から行動し、ネットワークを活用することが不可欠である。もちろん格差が是正できるからと、やみくもにネットワークを活用するのでは意味がない。私はネットワーク格差を脱するカギとして「ハブとつながる」ことを中心に論じている。本論文では、ネットワーク論の先行研究を元に基本的な概要を説明し、ネットワーク格差を脱するカギとして「ハブ」と呼ばれる人々について詳しく論じる。またネットワーク格差に関わる仮説を提示し、調査を行った。その調査をもとに仮説を検討する。

○松岡弘大「情報によって変化するモチベーション―目標設定において成果の向上に有効な情報とは―」
[アブストラクト]
本論文では目標設定理論における「情報」の重要性、影響を明らかにすることを目的とする。ここでいう「情報」とは「過去の平均のデータ」である。これを目標設定の際に与えるとモチベーションにどのように影響を与えるかについて研究した。本論文では最初にいくつかのモチベーション論をとりあげ、そこから目標設定理論に着目した。さらにこれを理論的根拠とする目標管理についても言及した。目標設定理論の「困難で明確な目標を設定すること」の重要性に着目し、「過去のデータの情報を与えることで、成果の向上につながる」、「与える過去のデータの違いにより成果は変化する」という二つの仮説を立て、実験を行った。その結果、第一の仮説は棄却されたが、第二の仮説、つまり、与える情報の数値を変化させることで、同じ課題に取り組んだにも関わらずモチベーション、成果に違いが現れることが実証された。その原因として本論文では「有能感」とそこから発生した「競争」による「目標の切り替え」が起きたと結論づけた。つまり、与えられた情報が課題に取り組む過程で目標となったということである。

○安田美那子「新入社員の期待と現実のギャップがもたらす影響―組織コミットメント論をもとに―」
[アブストラクト]
入社前に内定先の会社に対してもつ期待と、実際に働いてみて会社へ感じたことのギャップは誰でも感じることである。このような期待と現実の幻滅はリアリティ・ショックと呼ばれる。重大なリアリティ・ショックは離職の1つの要因とされる。本論文では、このようなギャップがなぜ生じ、どのような影響を与えるかを検討していく。まず、ギャップの生まれる背景について、日本における大学生の就職活動の現状から探っていく。さらに、ギャップが大きな影響を与えると考えられる、組織コミットメント論、モチベーション論について触れた上で、ギャップを感じやすい面、ギャップが与えやすい影響について仮説を立てていく。次に、現在正社員として働いている人を対象としたアンケート調査を行い、組織へのコミットメント、モチベーションに影響を与える要因を分析する。アンケート調査から得られた、入社前の期待の大きさが、コミットメント、モチベーション育成に影響を与えるという調査結果から、RJP理論に注目し、今後の課題を述べていく。