第2期生(2010年3月卒業)

 

○安島さやか「リーダーシップとネットワーク~Hi-Hi型リーダーの中心性~」
[アブストラクト]
長年研究されているリーダーシップ研究は、不動の2軸が存在しながらもその2軸からの脱却が模索されている。そこで本論文では、リーダーシップ研究に人と人との関係を研究するネットワーク理論を組み込んで研究を進めた。リーダー行動とネットワーク中心性を関連付け、社会人を対象にアンケート調査を行った。その結果、従業員重視のリーダー行動と変革を促進するリーダー行動はネットワーク中心性と関係があり、仕事重視のリーダー行動はネットワークとは関係がないことが明らかになった。そこから、従業員重視のリーダー行動でネットワーク中心性を高め、高まったネットワークを活かすことで変革が行いやすくなると結論付けた。また、リーダーの役職別にネットワーク中心性との分析も行っている。

○荻野哲弥「日本的集団への権限委譲―日本的集団特性の克服―」
[アブストラクト]
本論文では日本企業の現場レベルへの権限委譲の在り方を、民族学的視点を取り入れながら考察する。権限委譲に関する先行研究をいくつかレビューし長所・短所を明確にしたうえで、システムの定着要因として日本人の集団特性に着目する。ここで、日本人の横並び主義・他律の精神という集団特性が高い自立心を必要とする権限委譲のシステムと相いれないことを示す。
 日本人の集団特性の抽出と日本的権限委譲の在り方を探るために日本とニュージーランドにおいてアンケート調査を行った結果、日本の企業における権限委譲の在り方として二つの方向性の示唆を得ることができた。それは第一に小集団への権限委譲で、第二に委譲された権限に伴う責任と、個人の承認を連動させるというものである。
 さらに、日本企業における効果的な権限委譲の形の雛型としてヤマト運輸の「セールスドライバー制度」を挙げ、その日本的集団特性の克服の可能性を見出した。

○佐藤修平「ソーシャル・エンタープライズの発展にむけて―個人と組織のネットワークによるダイナミックな試み」
[アブストラクト]
私たちは少子高齢化や地球環境、障害者、コミュニティ再開発など、様々は社会的課題に直面している。こういった課題の対応として、社会的課題をミッションとして取り組むソーシャル・エンタープライズ(以下、社会的企業)に注目が集まっている。本稿では社会的企業について先行研究を述べた上で、現在社会的企業が抱える課題を明らかにした。社会的企業の課題とは、行政、企業、大学といった他機関との連携である。連携に関してはネットワークに注目し、ソーシャル・キャピタル論を用いながら、個人のネットワークが組織にとって経営資源となることを明らかにした。そして事例研究を交えながら①個人のネットワークを組織に転換する方法、②組織が持つネットワークの紐帯数を増やす方法、の2点が課題解決に向けて大きな効果があることを示した。

○早川貴「自発的な行動を促すために―キャリアステージにみる組織市民行動―」
[アブストラクト]
めまぐるしく変化する今日の経営環境に対応するためには組織成員による自発的な行動による柔軟な企業経営が望まれる。本論では自発的な行動=組織市民行動としてとらえ、キャリアステージにおける組織市民行動と影響要因との関係を、アンケート調査を行い、統計的処理を行う事で明らかにする。組織市民行動(organizational citizenship behavior)とは「①自由裁量的で②直接ないし明確に公式的な報酬システムでは認識されておらず③全体として組織の有効的機能を促進する個人的な行動」であり、役割外行動の一種であるといわれている。
 着眼点として、キャリアステージの高まりにより組織市民行動が頻発する一方で、影響要因である情緒的コミットメントがJ字型カーブを描くという矛盾に注目し、キャリアステージ毎に組織市民行動と影響要因との関係を分析する事で「キャリアステージによって組織市民行動が頻発するのは、職務満足・組織コミットメント・組織公正といった影響要因に対して高い評価を感じているからではなく、役職という肩書によってなによりも高まっている」という結論を導き出した。

○野中ありさ「組織のモチベーション管理~モチベーション理論の限界と限界質量モデルの活用~」
[アブストラクト]
人のモチベーションは他人に影響されるのか。本論文ではこの疑問を解決し、新たな組織マネジメントとしてのモチベーション管理方法を提案していく。
モチベーションとは行動を誘発する欲求のことである。人は個々が潜在的に持つ様々な欲求によって動機づけられるとするこれまでのモチベーション理論、モチベーション管理では、その個人の個人差を考慮する必要があった。しかし、モチベーションが他人に影響される、さらに互いのモチベーションに影響し合う現象は限界質量モデルを辿る、つまり臨界現象が生じることを実証出来れば、個人差を考慮することなくマクロ的視点から組織のモチベーションを管理することが出来ると考え、その実証を行った。
結果として、モチベーションは他人に影響されることが明らかとなった。その中でも臨界現象が生じるのは、「自らの欲求に反する状況に置かれているネガティブな状況」に限定されることが分かった。また同時に行ったアンケート結果から、「同期」が持つ影響力が互いのモチベーション向上に大きく役立っていることが明らかになった。
その結果を踏まえて、この限界質量モデルを活用したモチベーション管理として「同期」の集団ごとに動機付けを行うことで、効率的に臨界現象を生じさせ組織全体のモチベーションの向上が可能であると主張する。