◆ビジネススクール(高度職業人養成プログラム)

 

石川満「個人の全人的キャリア発達欲求と組織の要求との調和―キャリア中期の危機克服の事例研究から―」

 

[要旨]

 本研究の目的は、個人の全人的領域におけるキャリア発達欲求と組織の要求の調和のプロセスについて、キャリア中期における公私にわたる危機に焦点を絞り、仮説の生成を行い、個人と組織に新たな知見を提示することである。先行研究の後、キャリア中期の危機を経験した社会人男女5名を対象として、半構造化インタビューとワークシートの記入を実施し、質的分析を行った。

 

第1章では、「個人のキャリア発達欲求と組織の要求の乖離」について明らかにした。個人のキャリア発達欲求においては、長期的視点で育児や介護などの家庭生活や自身の生活と両立できる働き方を求める傾向が強まっていた。一方、組織の要求についてはグローバルな競争環境の激化から、短期的な成果要求や自律的キャリア要求が強まっており、両者のニーズが乖離していることが明らかとなった。

第2章では、「キャリアの概念とキャリア発達理論、生涯発達理論」についての先行研究と、「キャリア中期の危機」の事例をレビューし、本研究の理論的枠組みを構築した。先行研究により、キャリア発達理論においては、個人の立場に立った全人的なキャリア開発という視点での研究が不十分であることが示された。それを補完すべく、個人の立場に近いと思われる生涯発達心理学の接合を模索したが、青年期までの「個のアイデンティティ」発達を重視する研究は多いものの、キャリア中期における組織との相互作用のような「関係性にもとづくアイデンティティ」発達に関する研究は希少であった。また、事例のレビューにおいては「仕事・職場状況」要因と「家庭状況」要因の2つがキャリア中期の危機に影響を与えていることが示され、調査に際し両面からのアプローチが必要であることが確認された。

第3章では、本研究のアプローチ方法である質的研究法の採用理由と、具体的な手法として「SCAT法」の説明を行った。現実に即したデータを収集し内容を分析しながら仮説を構築する目的において、質的な研究方法が適合すること、小規模なデータから仮説を生成する手法として「SCAT法」が適合することを概観した。

第4章では、研究1-インタビュー1-として、キャリア中期の危機を克服した事例から、調和プロセスにおける個人の心理プロセスの特徴を分析し、主要なカテゴリーと仮説モデルを生成した。「家族状況の変化」、「価値観・願望の変化」、「仕事行動の変化」、「会社の理解」、「職場からの支援/圧力」をカテゴリーとして生成し、「仕事行動の変化」が「職場からの支援/圧力」に強い影響を与え「職場からの支援/圧力」が「仕事行動の変化」に弱い影響を与えている、すなわち個人の発達が、組織との関係の変容を生むという仮説モデルを生成した。

第5章では、研究2-ワークシート記入-として、仮説モデルの修正を実施した。インタビューにおいて示唆された「価値観・願望の変化」に「ストレス量」や「外的キャリア」がなんらかの関連があるのでは、という仮説のもと、「ワークシート記入」を実施し、分析を行った。「価値観・願望の変化」に対し各種のストレス量や外的キャリアが関係していることが確認されるとともに、その要因として新たなカテゴリーである社会要因「ジェンダー規範」が生成された。「家族状況の変化」「会社の理解」が「価値観・願望の変化」に影響を与える際の変数として解釈された。

第6章では、研究3-インタビュー2-として、仮説モデルの再修正を実施した。インフォーマントとの検証の結果、「仕事行動の変化」に関連したカテゴリーの必要性が明らかになったためである。新たなカテゴリーとして「組織との相互作用体験」が生成され、キャリア中期の危機への対処において重要な「仕事行動の変化」に対し、キャリア前期における主体的な「組織との相互作用体験」が影響していることが示唆された。  これらの分析結果から、キャリア中期の危機克服の成否要因として、個人の「価値観・願望の変化」が「仕事行動の変化」を生み「職場からの支援/圧力」を引き出すこと、「価値観・願望の変化」には、「ジェンダー規範」が影響していること、「仕事行動の変化」にはキャリア前期の「組織との相互作用経験」が影響していることを最終的な仮説モデルとして提示した。

 

この仮説モデルにより、キャリア中期の危機克服の要因として、その時点での組織の支援や個人の努力に注視するだけでは十分ではないことが示された。ジェンダー規範の影響や、キャリア前期における組織との相互作用経験といった、アイデンティティ生涯発達理論の枠組みをキャリア発達理論に接合する視点が必要であることが示唆された。

 

 

大津裕美「地方自治体職員の派遣による経験学習に関する一考察」

 

[要旨]

本研究の目的は、所属する組織を離れて別の組織で働く経験と、変動する環境に適応して自らキャリアを構築しようとする態度が、個人の学習にどのように影響するのかを明らかにすることである。研究の対象として、地方自治体における派遣制度を取り上げる。地方自治体は、研修や業務の一環で国の省庁や他の自治体、民間企業などに職員を派遣している。派遣されたことで職員がどのような経験をし、その経験からどのような学習をしたのかを実証的に分析することが本研究の主旨である。

具体的な研究課題は、次の2つである。 ①派遣によって、個人がどのような経験や学習をするのかを明らかにする。 ②キャリア・アダプタビリティが、派遣経験を通じた学習にどのように関係しているのかを明らかにする。

本研究では、派遣された職員は派遣先での仕事経験から何らかの学習をするという前提に立ち、経験学習の枠組みをもとにして、質問紙による定量的調査をおこなった。その際、キャリア・アダプタビリティの概念を仮説に加えた。キャリア・アダプタビリティとは「変化できる資質、大きな困難なくして新しいあるいは変化した環境に適応できる資質」(Savickas,1997)である。キャリアは経験学習と類似した概念でありながら、経験学習の先行研究ではあまり扱われてこなかった研究領域である。 本稿の構成は次のようになっている。

 

第1章では、地方自治体の派遣制度について人材育成上の位置づけを確認した。地方自治体を取り巻く環境が大きく変貌する中で、派遣制度は変化に適応できる人材の育成手段として用いられている。その現状について、全国及びある政令指定都市A市の数値を用いて確認した。

第2章では、経験学習に関する先行研究を概観した。具体的には、Dewey及びKolbの経験学習理論、米国のCCLが中心のリーダーシップ開発に関する研究、日本国内における経験学習プロセスに関する研究、職場における他者からの支援に関する研究、組織の枠を超える経験による学習に関する研究を取り上げた。また、第2章の最後では経験学習とキャリア発達との関連に言及した。

第3章では、キャリアの定義とアプローチを確認した上で、キャリア発達に関する研究を概観した。特に環境の変化への適応を重視したキャリア・アダプタビリティの概念について詳述し、個人と外部環境との継続的な相互作用としての経験学習の概念と合致していることを確認した。

第4章では、本研究における具体的な研究課題を設定した上で、先行研究に基づき次の2つの仮説を提唱した。仮説1「派遣先での仕事経験は、個人の学習と正の関係がある」については、経験学習に関する先行研究において、仕事経験によって個人は学習し成長することが明らかになっていることから仮定した。仮説2「キャリア・アダプタビリティは、派遣先での個人の学習と正の関係がある」については、派遣をキャリア・アダプタビリティが想定している予測不可能な環境の変化と捉えた。その上で、個人が派遣先の環境に適応するための学習には、キャリア・アダプタビリティが影響すると仮定した。  

第5章では、調査の概要と予備的分析の結果を説明した。調査は、A市の派遣経験者及び派遣未経験者を対象として実施した。仮説の検証に入る前に、派遣経験者と未経験者の回答の差を確認し、因子分析をおこなった。派遣先での仕事経験からは、業務上の失敗や困難と職場の人々からの支援の2因子を抽出した。仕事経験からの学習からは、自分の仕事スタイルの発見と客観的視点の獲得の2因子を抽出した。

第6章では、仮説の検証をおこなった。2つの仮説に対して、第5章で抽出した因子を用いて6つの作業仮説を設定し、各仮説について重回帰分析により検証した。検証の結果、全ての仮説が支持された。

第7章では、仮説の検証結果について考察した。仮説1については、派遣先では、業務上の失敗や困難に直面するのと同時に職場の人々からの支援を受けていた。それらの仕事経験は、派遣された職員が自分の仕事スタイルを発見し客観的視点を獲得することに寄与していた。仮説1の検証結果は、Kolb(1984)の経験学習サイクルにも合致していた。また、仮説2については、キャリア・アダプタビリティが高い者は、自分の仕事スタイルの発見や客観的視点の獲得といった学習をしやすいことが明らかになった。 さらに、派遣未経験者に対する調査の分析をおこない、派遣経験者と比較した。その結果、次の3つのことが明らかになった:①派遣先での仕事経験は同じ組織内での仕事経験とは質的に異なる ②派遣先の方が仕事経験から学習する可能性が高い ③派遣先の方がキャリア・アダプタビリティを発揮して学習する可能性が高い

 

本研究には2つの成果が挙げられる。1つは、地方自治体職員の派遣経験と学習の関連について明らかにしたことである。もう1つは、経験学習とキャリア・アダプタビリティの関連について、実証的に調査分析したことである。これらの成果からの実践的含意として、地方自治体における派遣制度について次の3つのことを提言した。第1に、派遣制度の運用にあたっては、キャリア・アダプタビリティの高い職員を対象とするだけではなく、職員の潜在的なキャリア・アダプタビリティを高めることにも用いるべきである。第2に、職員を派遣する際には、人材育成の長期的な視点を持つことが重要である。第3に、派遣先における業務上の失敗や困難へのフォロー体制を取ることである。本研究には課題や限界も多く残ったが、2つの研究課題に対しては実証的な分析結果を提示したと考えられる。

 

 

田代吏「多重的帰属意識と協力行動の関係に関する実証研究」

 

[要旨]

本研究の目的は、帰属意識の対象先が多様化する昨今において、「個人が全体組織、下位集団、プロフェッショナルとの関係の中で自身をどのように捉え、それが集団間の協力行動に対してどのような影響を与えているのか」を検証することである。 

近年、組織を取り巻く環境は大きく変化している。情報技術の発達に伴い、顧客のニーズは多様化し、専門性も増してきている。そのため、多岐にわたる商品・サービスの充実・強化を図っていくうえで、複数の部門間の連携や協力体制の重要性が増してきている。 一方、組織内においては、専門分化が進展している。各業務のプロフェッショナル化が進み、組織成員のプロフェッショナル志向が高まってきている。さらに、分化した役割を下位集団で担っているため、所属する組織成員同士の結束力は強くなる。そのため、昨今の組織成員は、プロフェッショナルであることや下位集団の一員であることに自らのアイデンティティを見出しているように思われる。 このような状況を受け、個々人が所属する下位集団やプロフェッショナルに対しては積極的な関わり方をするが、下位集団間・プロフェッショナル間には壁が生じていると感じている組織成員が多くなってきた。さらに、団塊世代の大量退職の影響によって大量採用されている若年層の組織成員の組織や仕事に対する意識の変化も叫ばれており、かつてのように、組織に対する帰属意識を軸に、協力行動を引き出していくことができるのかを再検討する必要があると考えられる。

そこで、本研究では、個人と組織・下位集団・プロフェッショナルとの関係性をとらえる概念として、帰属意識(組織コミットメント・組織アイデンティフィケーション)に注目し、①複数の対象先への帰属意識は相互にどのような関係があるのか、② 複数の対象先への帰属意識は組織成員の行動にどのような影響を与えているのか、③ 帰属意識は何によって引き起こされるのか、を明らかにする。 

 

第2節で先行研究をレビューした。初めに、組織コミットメント研究の代表的な定義と尺度を説明し、多重コミットメント研究を概観した。その結果、社会的交換を理論基盤とした組織コミットメント理論では、複数の対象先への帰属意識を捉えるのは困難であるとことがわかった。次に、もう一つの帰属意識の研究である組織アイデンティフィケーション研究の理論基盤を説明し、多重的アイデンティフィケーション研究を概観した。その結果、社会的アイデンティティ・アプローチを理論基盤とする組織アイデンティフィケーション理論が、複数の対象先への帰属意識を捉えるのに適していることが確認できた。しかし、組織アイデンティフィケーションが組織コミットメントに包含されるのではないかという疑問が生じたため、組織コミットメントと組織アイデンティフィケーションの弁別性と統合についての研究を概観した。その結果、組織コミットメントと組織アイデンティフィケーションを連携することが有効であるという考えに至った。 

第3節では、先行研究のレビューを踏まえ、分析枠組みと仮説を導出した。本研究では、Meyer et al.(2006)の統合プロセスモデルが適していると考え、援用することとした。そして、帰属意識を「組織アイデンティフィケーション」、「下位集団アイデンティフィケーション」、「プロフェッショナル・アイデンティフィケーション」、「組織コミットメント(愛着的コミットメント)」とし、組織アイデンティフィケーションを組織コミットメントに先行する位置づけとした。帰属意識による結果要因は、「下位集団間の協力行動」、「プロフェッショナル間の協力行動」とし、複数の帰属意識による交互作用を検討することとした。また、帰属意識の先行要因は、アイデンティティ適合原則を考慮し、組織アイデンティフィケーションの先行要因を「組織イメージ」、下位集団アイデンティフィケーション及びプロフェッショナル・アイデンティフィケーションの先行要因を「相互作用公正」とした。そして、それぞれの変数の関係に関する仮説を導出した。

第4節では、導出された仮説を検証するために、大規模な非営利組織にご協力いただいて行ったアンケート調査の概要を説明した。第5節では、そのデータを基に分析した結果、①組織アイデンティフィケーション、下位集団アイデンティフィケーション、プロフェッショナル・アイデンティフィケーションは、相互に正の関係性があること、②組織アイデンティフィケーションは、組織コミットメントに先行すること、③下位集団アイデンティフィケーションが高いと、下位集団間の協力行動をよく行い、愛着的コミットメントが高いとより顕著になる可能性があること、④プロフェッショナル・アイデンティフィケーションが高いと、プロフェッショナル間の協力行動をよく行い、愛着的コミットメントが高いと、より顕著になる可能性があること、⑤相互作用公正が下位集団アイデンティフィケーション及びプロフェッショナル・アイデンティフィケーションに正の効果があること、⑥組織イメージが組織アイデンティフィケーションに正の効果があること、がわかった。

 

以上の結果を踏まえて、第6節で考察を行った。そして、集団間の協力行動を促進するためには、①全体組織へのアイデンティフィケーションと自集団へのアイデンティフィケーションを同時に高める方略を検討する必要がある、②プロフェッショナルの特殊性を考慮した制度や施策を検討していく必要がある、③管理職全体の育成を行っていく必要がある、④組織のイメージを組織内にも発信することが重要であると結論づけた。

 

 

村上功「地方自治体職員の異動に伴う再社会化とキャリア意識―A自治体職員を対象とした実証分析―」

 

[要旨]

はじめに

 本稿の目的は、地方自治体職員が管理職を志向する要因、業務におけるキャリア意識を組織(再)社会化とキャリア・アダプタビリティを中心とした視点から定量的分析により明らかにしていくものである。 

 

第1章

 A自治体の人事制度慣行とA自治体職員の意識 A自治体においては、一部の職位の昇任にあたり人事委員会統一選考による選考試験があり、選考試験合格後の昇任時に局を越えた異動などの大きな異動を昇任と共に経験する傾向がある。また、A自治体職員の意識については、A自治体が実施したアンケート調査の分析により、自らの職務に対して高いやりがいと昇任意欲をもちながら、それらの割合と比べると管理職以上の昇任を望む者は少ない傾向が明らかとなった。

 

第2章

 先行研究から見る地方自治体の異動とキャリアについて 先行研究では、頻繁かつ未経験の部署に配属される傾向にある地方自治体の異動の独自性について指摘している研究が多く、地方自治体の異動制度がジェネラリスト育成には機能していたが、近年求められているスペシャリストを計画的に育成するシステムとしては有効に機能していないことが指摘されている。また、これらを要因とした業務遂行におけるジェネラリスト志向とプロフェッショナル志向との矛盾が、そこで働く職員のキャリアやモチベーションにも影響していることが指摘されている。

 

第3章

 キャリアの理論 多様性のあるキャリア理論のなかで、キャリア・アダプタビリティは成人期におけるキャリア意識、キャリア発達の方向性やプロセスが内包する多様性や不確実性に対して、どのように対処していくかを考える場合に有効な指標となるものである。また、キャリア・アンカーのうち、専門・職能コンピタンスと全般管理コンピタンスは管理職の節目の議論で課題となるものであり、前者は業務におけるスペシャリスト志向を測定する尺度として適切である。

 

第4章

 組織再社会化と組織社会化 地方自治体の異動における対処課題はまさに組織(再)社会化の課題と同様であり、組織社会化の課題である役割の明確化、自己効力感、社会的受容と、組織再社会化の課題の特徴である学習棄却の4つの課題が地方自治体の異動における対処課題に繋がるものである。

 

第5章 仮説の提唱

  仮説1 異動時の組織再社会化の困難経験が、A自治体職員のキャリア意識に負の関連を示す。

  仮説2 異動時の組織再社会化の困難経験が、A自治体職員の管理職志向に関連している。

  仮説3 A自治体職員のキャリア・アダプタビリティは管理職志向に関連している。

  仮説4 A自治体職員のキャリア・アダプタビリティは業務に関するスペシャリスト志向に正の関連を示す。

  仮説5 A自治体職員の業務に関するスペシャリスト志向が管理職志向に負の関連を示している。

 

第6章 仮説の検証

 異動時の組織再社会化の困難経験」は因子分析の結果、「社会的受容、自己効力感」「役割の明確化」「プレッシャー」「担当業務の評価、役割探索」「サポートの欠如」の5つの因子に分類された。

 また、重回帰分析の結果以下の通りの結果となった

  仮説1 異動時の組織再社会化の困難経験の「役割の明確化」「サポートの欠如」がキャリア・アダプタビリティの「キャリア自信」と有意な負の関連、「担当業務の評価、役割探索」が「キャリア自信」と有意な正の関連を示した(一部支持された)。 

  仮説2 異動時の組織再社会化の困難経験の「担当業務の評価、役割探索」が「管理職容 認志向」に有意な正の関連を示した(支持されなかった)。 

  仮説3 キャリア・アダプタビリティの「キャリア自信」「キャリアコントロール」「キャ リア好奇心」が「管理職容認志向」と有意な正の関連を示した(一部支持された)。 

  仮説4 キャリア・アダプタビリティの「キャリア自信」「キャリア関心」が「業務スペシャリスト志向」に有意な正の関連を示した(支持された)。 

  仮説5 「業務スペシャリスト志向」は「管理職容認志向」「管理職敬遠志向」とも有意な関連性を示さなかった(支持されなかった)。

 

第7章 仮説の考察及び第8章 総論

 本研究により、地方自治体職員のキャリア意識において、少なからず、異動時における困難な経験が影響していることが明らかとなった。そして、それらの影響を緩和するためには、担当業務の評価、役割探索といった「前向き」な取組みを実施すること、かつ、その取組みを奨励し支援する組織的なサポートが有効であることが明らかとなった。また、一般的に組織(再)社会化において、苦労した(うまくいかなかった)経験が、社会化結果に負の影響を与えているとの先行研究が主流のなか、正の影響を与える要因があることが明らかになったことは、意義のあるものと言える。