◆ビジネススクール(高度職業人養成プログラム)

 

川口尚角「ビジネスエコシステムにおける中核的プレイヤーの新たな類型:データセンター・仮想化戦略の事例分析をもとに」

 

[要旨]

IT業界は、テクノロジーのライフサイクルが短い業界である。メインフレームが全盛期の時代、IBMは必要な製品とサービス全てのパッケージを提供し、他社が参入する余地を与えなかった。この盤石に見えた垂直統合化されたメインフレームのエコシステムは、水平分業化されたPCのエコシステムの登場により、その地位を取って変わられた。

しかしながら、最近になって、IT総合ベンダーによる、垂直統合化が広がっている。大手ベンダーは、ITインフラ企業から、ITサービス企業まで、あらゆるレイヤーの企業を買収して、自社に抱え込み、垂直統合化している。 

その過程で、以前は親密なパートナーであった企業同士が、パートナーを解消するといった事例がいくつか確認できた。IT総合ベンダーの巨大化の過程で、それまでと異なるふるまいを行う中核的プレイヤーの存在が見受けられた。本論文の問いは、Iansiti&Levien(2004)が定義したキーストーン、支配者とは異なる中核的プレイヤーの類型を再検討する必要があるのではないかということである。

研究にあたって、エコシステムにおける中核的企業の対立、パートナーシップの解消の原因が、「IT業界の環境の変化に対応するために支配者化したIT総合ベンダー同士の争い」にあると考えている。

この問いを解明するにあたり、主として2008年以前と2009年以降の二つの時代に区分し、各時代において、エコシステムと中核的プレイヤーの比較を行った。

分析の結果、以下のような事象が明らかになった。

2003 - 2008年においては、IT総合ベンダー各社がキーストーンとして、エコシステムのハブに位置し、パートナープログラムなどを提供し、エコシステムの繁栄を生み出しながら、パートナーの利益の源泉には浸食しないという暗黙の了解のもと、自身の得意分野でビジネスを行っていた。

しかしながら、2009 - 2012年においては、それまでと同様にパートナープログラムは提供しながらも、他社の利益の源泉への浸食、相手の締め出しなどの行動の結果、パートナーシップを解消するといった現象が確認できた。

IT業界の分析から、外部環境の変化に伴い巨大化し、支配者化しながらも、キーストーンの役割も持ち合わせるHybridの形態が確認できた。

この結果により、Iansiti=Levien(2004)が定義したキーストーン、支配者の定義には当てはまらない、両方の役割を合わせ持つHybrid型の存在を定義する必要があるとの結論を導いた。

 

松井良憲「所属組織への不正申告意思についての実証研究-組織コミットメントの多次元性に着目して」

 

[要旨]

本論文は、組織成員が組織内の不正を認識した際に所属組織に対して不正を申告する行動、内部申告行動を分析するため、田尾(1997)において認められた組織コミットメント4つの因子(下位尺度)である「愛着要素」「内在化要素」「規範的(日本的)要素」「存続的要素」を用いて内部申告意思と組織コミットメントの関係、また、内部通報制度と一般に呼ばれる制度に対する意識が内部申告意思にどのような影響を及ぼすかについて検討を行ったものである。

実証の結果、組織コミットメント「内在化要素」と内部申告意思との間に正の関係が認められた。また、内部通報制度に対する一般的信頼が高いほど、内部通報制度を利用して匿名により申告する意思が高くなること、また、所属組織に対して直接不正を申告する意思も高くなるという結果が認められた。 

 

三木商吉「営業職の目標管理が動機づけに与える影響 - 職務特性と目標内容に着目して」

 

[要旨]

 本論文は、営業職の目標管理が動機づけに与える影響に、職務の特性と目標の内容がどのように関係するかということを調べるため、ある企業において調査を実施し、検証したものである。

 目標管理制度とは、組織に属するメンバーが、期初に上司との面談を通じて自らの目標を設定し、期末にその目標の達成度や目標への取り組みの度合いについての評価を受け、個人の業績や貢献度を決めるという制度である。目標管理制度が用いられる目的は主に、成果主義制度の実行や従業員の動機付けであると言われている。労務行政研究所が実施した2010年の調査によると、調査対象企業(上場企業を中心に約4,000社)の74%が目標管理制度を導入している。

 日本の企業における目標管理制度の問題点として、制度を全社的に一律に導入するため、部門や職務内容、従業員の属性などによって制度の運用方法が調整されていないことが挙げられている。たとえば製造部門の職務と研究・開発部門の職務は異なり、同様に、新入社員の職務特性と管理職の職務が異なるのは明らかである。職務の特性が異なれば、それに応じて目標管理の運用方法も変えなければならないのである。

 モチベーション理論の一つに目標設定理論があり、目標管理制度に理論的な根拠を与えている。「具体的で難しい目標を与えられた場合は、易しい目標やあいまいな目標を与えられた場合に比べて、あるいは何も目標を与えられなかった場合に比べて、より高い動機づけを受ける」というものである。一方で、困難な目標や具体的な目標を設定することが、常に高い業績や動機づけを与えるとは限らないことも指摘されている。ある研究では、難しい内容のタスクにおいては、困難な目標を設定した場合、易しい目標を設定した場合に比べて業績が低くなることを示した。つまり、目標設定理論においても、あらゆる環境において常に動機づけや業績向上に効果を与える目標設定というものはなく、環境が異なれば、有効な目標設定の方法も異なるのである。

 目標管理についての研究には、制度としての目標管理の経営効果や問題点を検討しているものなどはあるが、目標管理における仕事への動機づけを検討したものはほとんど見当たらない。また、目標設定の動機づけ効果の研究は、実験室において行われたものが中心であり、実際の企業などの実務の現場における実証研究は少ない。よって、本論文においては、目標管理が仕事への動機づけに与える影響に関して企業における調査を行い、職務特性が異なれば有効な目標設定の方法が異なることを検証することとした。

 調査は、目標管理制度を導入している機械製造業のA社およびその販売代理店2社の非管理職の営業員を対象に、アンケート形式にて実施した。目標設定が動機づけに効果を及ぼす際に、職務特性と目標の内容(目標の種類および目標のレベル)の組み合わせによる交互作用が生じるという仮説を調査のフレームワークとした。先行研究より、職務特性については3つ(技能多様性、自律性、タスク完結性)、目標の種類については2つ(結果目標およびプロセス目標)に分類した。

 重回帰分析による検証の結果、自律性の高い職務において、結果目標は動機づけを高める効果を与え、プロセス目標は動機づけを低下させる効果を与えるという仮説が支持された。

 この結果より、目標設定において目標の内容(種類)を選択することが、動機づけ効果に影響を与えるということが理論的示唆として挙げられる。また、実務においては、目標管理の現場にいる営業管理者は、目標の種類やレベルを十分に考慮した上で目標を設定することが、営業員の動機づけにおいて重要であると言える。

 

水野敦広「地方公務員の主観的キャリア観に関する一考察―ある政令指定都市職員を対象とした実証分析―」

 

[要旨]

地方公務員のキャリア論は、昨今の社会経済環境の変化に伴う地方公共団体の組織的課題の解決に資するべく、その意義が見出されているといえる。その研究は、昇任などのタテのキャリアを中心に、職務経歴といった客観的キャリアを分析したものが多いが、本稿は、異動などのヨコのキャリアに焦点を当て、地方公務員の主観的キャリア観に着目し、組織・職務に関する概念との関連性を考察したものである。

本稿は、理論的枠組みとして、個人特性理論からキャリア・アンカーを、発達理論からキャリア・アダプタビリティの概念を採用する。そして、地方公共団体における喫緊の課題を踏まえ、モチベーション、組織コミットメント、組織変革、住民に対する行政責任の概念を取り上げて、キャリアとの関連性に関する仮説を設定し、ある政令指定都市職員を対象とした意識調査の結果を分析することで、その検証を試みる。

検証の結果、当該指定都市の職員は、想定したよりも主観的キャリア観を有しているとみられ、それが、職員のモチベーションの維持・向上に資するとともに、組織コミットメントと両立し得るものと推測される。また、主観的キャリア観と組織変革、住民に対する行政責任の意識との関連性の分析から、行政課題の複雑化・高度化によって地方公共団体の業務の細分化・専門化が進み、スペシャリスト型の人材が求められている中、従来とは異なるジェネラリスト型の人材を育成することの有用性が示唆される。

なお、本稿は、特定の地方公共団体の職員を対象として実施した定量調査の結果に基づく考察である。地方公務員のキャリア研究をより深めるためには、タテとヨコのキャリアの連関を踏まえた定性調査を実施することも必要であると考える。

 

山田健太「地方自治体におけるリーダーシップ継承の実証研究」

 

[要旨]

本研究は、日本企業・団体における定期的な人事異動の慣行に着目し、リーダーが交代した場合のリーダーシップの規定要因について、実証研究を通じて明らかにすることを目的としている。

研究1では、リーダーシップ継承の先行研究であるBallinger and Schoorman(2007)のモデルが、日本企業・団体において適用されるか検証する。 質問紙調査のデータを分析した結果、旧リーダーとのLMXの質はフォロワーの情動的反応に負の影響を与えるが、情動的反応は新リーダーとのLMXの質に影響を与えていなかった。

研究2では、リーダーシップ継承に係る新たな変数として自己効力感、相互作用的公正の差、権限委譲の差、組織コミットメントを取り上げ、仮説モデルを設定する。 質問紙調査を分析した結果、新リーダーとのLMXの質に対して、フォロワーの自己効力感が負の影響を与え、相互作用的公正の差および組織コミットメントが正の影響を与えていた。 また、フォロワーの自己効力感には、旧リーダーとのLMXの質と新リーダーとのLMXの質との関係に影響を与えるメディエート効果が検証された。 

 

渡辺雄介「経営理念浸透における中間管理者の役割―理念浸透プロセスの実証研究―」

 

[要旨]

本稿の目的は、経営理念浸透における中間管理者の役割を明らかにすることである。

中間管理者は、実務上、組織内「結節点」としての重要な機能をもつ一方、理念浸透研究で中間管理者に焦点をあてたものは少ない。本研究では、実証研究をつうじて、実務と学術間の乖離を埋めるべく、理念浸透プロセスの精緻化を試みている。

第一に、理念浸透研究の全体像を述べる。経営理念浸透研究では、従来は組織単位の「マクロレベル研究」が主流であったが、理念浸透プロセスの精緻化を目的として、近年では個人レベルを主体とした「ミクロレベル研究」が主体となりつつある。

第二に、本稿の構成を述べる。

第一章において、先行研究を概観している。まずは企業全体を一単位としたマクロレベル研究を議論したうえで、ミクロレベル/クロスレベル研究を論じている。さらに、本稿の課題である中間管理者に焦点をあてた研究を紹介している。具体的には、金井(1997)の「観察学習モデル」や「意味生成レベル」にも言及したうえで、理念浸透研究の系譜を論じている。

第二章において、先行研究の課題提示と仮説設定を試みている。具体的には、先行研究で十分議論されていない三点(1. マネジャーの能動性 2. 理念を語る場 3. 理念の咀嚼と意味づけ)を課題として捉え、仮説を提示している。仮説は以下三点である。

<仮説1>

経営理念浸透において、上司(被観察者)と部下(観察者)間で理念を再考、議論、伝承される「場」が存在し、理念浸透に何らかの影響を与えている。

<仮説2>

上司の部下に対する能動的な働きかけが、組織や個人の理念浸透に何らかの影響を与えている。

<仮説3>

経営層(トップ)の経営理念を中間管理者(ミドルマネジャー)が「咀嚼・意味づけ」して伝承することが、理念浸透に何らかの影響を与えている。

第三章において、実証研究により仮説検証を試みている。具体的には、外資系生命保険会社(A社)のマネジャーに対する実証インタビューにより、理念浸透プロセスの精緻化を試行している。質問項目は三点(1. 理念が腑に落ちた経験 2. 理念を含めた部下の人材育成 3. マネジャーのあるべき姿)を、定性データ分析手法である「SCAT(Steps for Coding and Theorization)」を用い分析している。分析結果は、以下のとおりである。

1. 中間管理者は、理念の再考・議論・伝承する場を積極活用している。

2. 中間管理者は、能動的コミュニケーションを積極活用している。

3. 中間管理者は、経営理念を咀嚼、意味づけしながら理念浸透に活かしている。

以上三点が分析の導出結果であり、仮説論証結果でもある。

第三に、本稿の課題および含意を述べる。

 

本稿では、いくつかの課題(1. インタビューイの僅少さ(4名) 2. インタビューイのレベル(殆どがMBA保持者) 3. インタビューイがマネジャーのみである(フォロワーは対象外)が残されたが、「場」や「能動性」等の新規性も導出されている。今後、課題を克服すべく研究を継続することで、本稿課題(経営理念浸透における中間管理者の役割導出)の精緻化を目指していきたい。