第13期生(2022年3月卒業)

大北智也「インフォーマル・コミュニケーションとモチベーションの関係―休憩中の雑談がワークモチベーションに与える影響―」

【アブストラクト】

近年、新型コロナウイルス感染症への対応から多くの企業においてテレワークが急激に拡大した。それに伴い、対面出社時には頻繁に行われていたインフォーマル・コミュニケーションを行うことが難しくなっている。その影響がどの程度のものなのか知ることは意義のあることだと考える。しかし、日本において、インフォーマル・コミュニケーションが組織や従業員に与える影響についての研究はあまり進んでいない。

そこで本論文では、日本の労働者を対象に、インフォーマル・コミュニケーションを行うことが労働者のワークモチベーション、そしてパフォーマンスにどのような影響を与えているのかについて分析を行った。2021年11月に調査会社を用いて約200件のデータを収集し、媒介分析や重回帰分析を用いた結果、以下の4点が明らかになった。

(1)インフォーマル・コミュニケーションを行うことは、モチベーションを高め、パフォーマンスを向上させる効果が期待できる。

(2)同じ部署の人々とのインフォーマル・コミュニケーションは、異なる部署の人々とインフォーマル・コミュニケーションをとる場合に比べて、よりモチベーションを高める効果が期待できる。

(3)同じ部署の人々とのインフォーマル・コミュニケーションと異なる部署の人々とのインフォーマル・コミュニケーションを両方行った場合、学習志向的モチベーションを高める効果が期待できる。

(4)テレワーク環境におけるインフォーマル・コミュニケーションはモチベーションに有意な影響を及ぼさない。

今回は、インフォーマル・コミュニケーションという外的要因を用いてモチベーションとの関係を分析した。しかし、モチベーションは、個人特性や動機といった内的要因によって規定される部分もある。そこで今後はパーソナリティなどの個人特性を踏まえた上で、インフォーマル・コミュニケーションがモチベーションに与える影響を検討する必要がある。

 

栗秋マリアン「企業とNPOのコラボレーションー協働価値創造と潜在的価値資源の関係性に関する質的分析ー」

 本論文ではNPOと企業のコラボレーションの潜在的価値資源と協働価値の関係性を検討した。具体的には、NPOと企業による2つのコラボレーションについてインタビュー調査を実施し、先行研究(Austin & May, 2012)に基づき、以下の仮説の検証を試みた。

仮説1:相手パートナーの目的や関心(接続インタレスト:潜在的価値資源)を理解し、価値創造のインタレストが両パートナー間で深く接続しているほど、より高度な相乗効果価値が得られる

仮説2:組織的特有の資源(資源特殊性:潜在的価値資源)を共有し活用することで、より高度な相乗効果価値が得られる

調査の結果は、いずれの仮説も支持するものではなったことから、資源の統合性が相乗効果価値に大きく影響していると考察し、共創をより有意義な形にするためには資源の統合性の高度化が重要であると結論づけた。

 

鈴木秀明「テレワークが就労者の心理状態に及ぼす影響―オフィス勤務とテレワークでのメンタルヘルス、心理的安全性、ワーク・エンゲイジメントの違い ―」

【アブストラクト】

 近年、新型コロナウイルス感染症への対応から多くの企業におけるテレワークが急激に拡大した。しかし、多くの就労者にとって新しい働き方であるテレワークを実施することがどのように就労者の心理状態に影響しているかについては過去に十分な研究が行われていない。

 そこで本論文では、近年の組織研究で注目度が高まっているにもかかわらず、テレワークの影響が明らかになっていない「メンタルヘルス問題」、「心理的安全性」、「ワーク・エンゲイジメント」の3点に注目し、テレワークという働き方が就労者に及ぼす影響について分析を行った。2021年11月に調査会社を用いて約200件のデータを収集しt検定や重回帰分析を用いた結果、以下の5点が明らかになった。

(1)テレワークは、心理的安全性に正の影響も負の影響も及ぼさない。

(2)テレワークは、メンタルヘルス問題に正の影響も負の影響を及ぼさない。

(3)テレワークと相性の悪い業務をテレワークで実施した場合、ワーク・エンゲイジメントが低下する。

(4)組織的テレワーク環境を整備することと、オンラインコミュニケーションの活用、中でもチャットシステムを頻繁に使用することは、テレワーカーの心理的安全性を高める効果が期待できる。

(5)組織的テレワーク環境を整備することと、オンラインコミュニケーションの活用、中でも電話とチャットシステムを頻繁に使用することは、テレワーカーのワーク・モチベーションを高める効果が期待できる。

今回は出社勤務とテレワーク勤務を比較した勤務環境という外的要因によって調査した。しかし、メンタルヘルス問題と心理的安全性は、外的要因に比べ内的要因によって規定される割合が高い。そこで今後はテレワークという外的要因だけでなくパーソナリティなどの個人特性を踏まえた上で、テレワークにおけるメンタルヘルス問題の低減や心理的安全性の向上の為の施策を検討する必要がある。

 

原田太一「コロナ禍における若年就業者の同期意識―入社前後の組織適応施策の影響と組織コミットメントとの関係―」

【アブストラクト】

 職場における「同期」という関係は、ジョブ型雇用を行う欧米的な企業よりも、新卒一括採用を実施している伝統的な日本企業の方が存在感を持ってきた。ほぼ同い年の学生が一斉に企業に入社し研修などを経て、同期意識を育むからである。しかしながら、同期意識に関する学術研究は依然として十分ではなく、また昨今の新型コロナウイルス感染症の流行により、新入社員の入社前後の環境は変化している。

 そこで本論文では、新型コロナウイルス感染症への対策が同期意識にどのような影響を及ぼしているのかを,入社前行事や新人研修に注目して探るとともに、現代の若年就業者の同期意識が組織コミットメントに及ぼす影響について分析を行った。2021年11月に調査会社を用いて約150件のデータを収集し、平均値の差の検定や重回帰分析を実施した結果、以下の4点が明らかになった。

(1) 内定式や内定者交流会といった入社前の同期社員との交流は、同期意識に有意な影響を及ぼさない。

(2) 新人研修において、出社か在宅勤務かという研修の実施方法は、同期意識に有意な影響を及ぼさない一方で、長期的な新人研修を実施することで、同期意識を高める効果が期待できる

(3) 同期間でコミュニケーションをとることは、仲間意識の醸成につながり、その結果として情緒的コミットメントと規範的コミットメントを高める効果が期待できる。

(4) 物質的・金銭的なものをサイドベットとする存続的コミットメントは、同期意識に有意な影響を及ぼさない。

 今回は、新型コロナウイルス感染症へ対策しつつ実施した新人研修に関して、場所の隔離(オンライン実施)と研修の縮小(研修を短期で実施)の2点について調査した。しかしながら、感染症への異なる対策法や、コロナ禍でも同期社員同士が関係を深められるような工夫を行っている企業も存在する。そこで今後は、より詳細に新型コロナウイルス感染症への対策と工夫を分析に盛り込み、新入社員の入社前後の環境が同期意識に与える影響を検討する必要がある。