第11期生(2020年3月卒業)

青木秀平「グローバル化とダイバーシティ・マネジメント―外国人労働者の上司に求められるリーダーシップ」

【アブストラクト】

日本の人口減少等に起因して、企業組織における人材の多様化が進んでいる。本論文では、特に日本企業で働く外国人労働者に焦点を当て、「外国人労働者の上司に求められるリーダーシップ」を明らかにした。具体的には、外国人労働者のモチベーションに対して有効な要素を検証した。その結果、伝統的リーダーシップとされる配慮・構造づくりのうち、配慮は有意な影響が見られず、構造づくりのみモチベーションに対し正の影響が示された。また、外国人労働者との相互学習や外国人労働者文化に対する理解が、モチベーションに対し正の影響を与えていた。さらに上司の公平性は外国人労働者のモチベーション、日本人の同僚のモチベーション、どちらも正の影響を与えることが示された。伝統的なリーダーシップの有効性は一部示されたが、支持されなかった部分や新たな要素が明らかになったことは意義があると言える。外国人労働者の増加等、多様化する職場において、今までの形にとらわれないリーダーシップの模索が必要であると言える。

 

 伊藤あゆ美「子育てをする女性へのキャリア支援と組織コミットメントについて」

【アブストラクト】

本論文の目的は、働き方改革が推進される中で多様な働き方、特に子育てをしながら働く女性が働きやすい組織には何が必要であるのかを明らかにすることである。情緒的コミットメント、功利的コミットメント、組織を背負う意識の3尺度を用いて、出産後も継続して働く女性たちの組織コミットメントにはどのような影響を与えているのかを考察した。結果として、両立支援制度が浸透している組織では情緒的コミットメントと功利的コミットメントに正の影響を与えていること、上司の支援は組織を背負う意識のみに正の影響を与えていること、同僚の支援は組織コミットメントの3要素全てに正の影響を与えていることがわかった。この結果から、制度などハード面の整備だけでなく、組織と個人の間でコミュニケーションをとり、互いが必要と感じることを共有するといったソフト面の充実も求められていることが示された。

 

酒井奈緒子「人的資源管理がリテンションに及ぼす影響について」

【アブストラクト】

労働人口の減少や雇用の流動化が進む現代において、組織内に人材を確保し、定着させることが企業の課題である。本論文では、人的資源管理の中から配置管理と人事評価に焦点を当て、この二つの管理が人材定着(リテンション)にもたらす影響を明らかにした。その結果、適切な配置管理や人事評価が行われることで、従業員は組織に居続けようという意思を持つということが明らかになった。また、不適切な配置管理はリテンションに影響を及ぼさない一方で、不適切な人事評価はリテンションを阻害するという結果となった。人事評価は従業員の心理的側面に直接的に影響を与えることが示唆された。従業員のリテンションを課題とする現代の企業にとって、適切な人的資源管理制度を整えることが早急に求められる。

 

曽根潤心「中途上司の効果的なリーダーシップスタイルについての研究―模範的なフォロワーを生み出す為には」

【アブストラクト】

近年、企業における人材の多様性がますます重要視される中で、中途社員の存在意義も大きくなってきている。さらに今後、ますます中途上司の数も増えていくだろう。では、中途上司には、どのようなリーダーシップ行動が求められるのだろうか。この疑問を解決すべく、本論文では『中途上司が、独自の考え方を持って主体的に行動できる理想的なフォロワーを生み出すためには、どのようなリーダーシップを発揮することが効果的なのか』という問いを立て、そこから4つの仮説を導き出し、その検証を行った。その結果、中途上司のP型のリーダーシップ行動は模範型のフォロワーを生み出すことに効果的に働く傾向が強いが、M型のリーダーシップ行動はその直接的な要因にはならないことが分かった。本論文を通して「P型のリーダーシップ行動が模範型のフォロワーを生み出すことに有効的である。」ということが明らかになったことは意義があるものといえるだろう。ただ一方で、模範型のフォロワーを生み出すことは、成果を出す組織を創るための一要素に過ぎないことも念頭に入れておく必要がある。以上を踏まえ、成果を出す組織が持つ他の要素に対して、更なる研究を進めることが大切であろう。

 

竹内睦「早期離職を防止するための就職活動時の行動とは何か」

【アブストラクト】

昨今、大卒新卒者の3年以内離職率が30%に及ぶなど、若年層の早期離職が問題となっている。大学3年生の夏から約1年かけて業界、企業、自分の適性について理解を深めながら就職活動を行うにもかかわらず、早期離職者は理想と現実の違いや、実力不足による自信の喪失を離職理由に挙げている。そこで早期離職せずに続けている人と早期離職する人では就職活動中の行動に違いがみられるのではないかと考え「早期離職を防止するための就職活動中の行動とはなにか」という問いを立て検証を行った。その結果、インターンシップへ参加する姿勢が離職する意思に作用すること、同期と交流する機会が多いことは離職する意思を促進することが示された。インターンシップなどの就職活動中の行動と早期離職についての研究が進み、マイナスな理由で離職する人が一人でも少なくなる環境になることを期待したい。

 

中村湧「中途採用者が高いパフォーマンスを発揮する組織」

【アブストラクト】

現代の日本では離転職が身近になり、中途採用に関して注目が集まっている。そこで本論文では、中途採用者が高いパフォーマンスを発揮する条件を明らかにするための研究を行った。具体的には、中途採用者の「主観的業績」に対し、「上司の配慮的リーダーシップ・同僚間のコミュニケーション・組織の家族文化」のそれぞれが影響を与えるものであるかを検証した。検証した結果、「上司が配慮的リーダーシップをとること」と「同僚間のコミュニケーションの多さ」は中途採用者の主観的業績に有意な正の影響を与えていた。一方、「組織の家族文化」は弱い正の相関はみられたものの、有意な影響を与えてはいなかった。この結果から、中途採用者が周囲からの支援を受けやすい環境は、中途採用者のパフォーマンス発揮につながると考えられる。しかし本研究では、組織文化との関連は見いだせなかった。今後は中途採用者のパフォーマンス発揮につながる要因を細かく分析し、組織文化との関連性を検証する必要があるだろう。

 

新田魁人「能力開発管理とリテンションの関係」

【アブストラクト】

現代の日本では少子高齢化、雇用の流動化の進展、それに伴う転職者の増加により、企業が人材を確保するのが難しい状況となっている。そこで本論文では、人材の流出を防ぎ、企業に定着(リテンション)させるための要因として、能力開発管理に注目している。その中でも従業員が離職せず、企業に定着するためには、若手時代に受ける教育訓練が重要だと考え、その影響について仮説を構築し、検証した。

分析の結果、教育訓練の有用度は離職意思に影響を与えない一方、自己啓発実施の積極性に正の影響を与えることが分かった。また、上記の分析結果を受けて行った追加分析では、教育訓練の有用度がコミットメントに正の影響を与えていることも分かった。しかし、本論文では能力開発管理とリテンションの関係を検証する際に、能力開発管理に関して教育訓練の尺度しか使用しておらず、自己啓発やその他の能力開発の方法とリテンションの関係について研究することも求められる。

  

森合美温「若手社員の離職意思及び組織社会化に、若手社員の同期が与える影響」

【アブストラクト】

近年、若手社員の離職率の高さが問題となっている。なぜ若手社員は早期に離職してしまうのか。この問題に対して、本論文では離職要因の1つである「職場での人間関係」に注目した。その中でも特に、若手社員と近い関係にある同期に焦点を置き、同期との人間関係と若手社員の離職意思及び組織社会化について分析を行った。調査は入社1~3年目の若手社員を対象とし、人間関係を測る尺度として「同期からの支援行動」、「同期への仲間意識」、「就業前交流の回数」、「交流頻度」を用いた。

分析の結果、同期の業務支援が離職意思に負の影響を及ぼすこと、同期の精神支援及び就業前交流の回数は離職意思に影響を及ぼさないこと、同期への仲間意識が離職意思に正の影響を与えること、同期の精神支援が組織社会化に正の影響を与えること、同期の業務支援及び同期との交流頻度は組織社会化に影響を与えないことが明らかになった。このことから、同期の業務支援や精神支援が早期離職防止に有効であることが示唆された。一方で、同期との交流に関しては視点を変えて更なる研究が求められる。