第10期生(2019年3月卒業)

川畑悠菜「仕事と私的生活の相乗効果を促進する職場環境と相乗効果を促進させるメカニズムに関する研究」

【アブストラクト】

本論文は仕事と私的生活の相乗効果に着目し、かつ、私的生活を家庭生活に限定せず捉えた。その上で「職場特性、上司特性、仕事特性の3つを取り上げ、ワーク・ファミリー・エンリッチメントの促進にはどのようなメカニズムがあるのか」という問いを設定した。

検討した結果、職場特性、上司特性、仕事特性の 3 要因が、仕事に対するポジティブな価値観である職務満足を媒介して、仕事と私的生活の相乗効果を表すワーク・ファミリー・エンリッチメントを高めるということが明らかになった。また、規定要因である 3つの特性は独立してではなく、特性間で作用しながらワーク・ファミリー・エンリッチメントに対して影響を与えていた。よって、今日、WLB 政策として力を入れている私的生活の充実だけでなく、仕事の充実がワーク・ファミリー・エンリッチメントを促進させるということが示された。

 

杉浦花菜「女性総合職の新人時におけるロールモデルの重要性」

【アブストラクト】

本論文は、労働人口の大幅な減少のなか、多様な労働力として特に注目されている女性社員に焦点を当てている。女性が離職せず、正社員や管理職として高い能力を発揮するためには、新人時におけるロールモデルの存在が重要だと考え、その影響について仮説を構築し検証した。その結果、新人時のロールモデルの有無は現在の管理職志向に影響を与えない一方、現在の仕事満足度に正の影響を与えていることが分かった。また、上記の分析結果を受けて行った追加分析では、「同性である」「人間関係を重視し、広い人間関係を保っている」ロールモデルが現在の仕事満足度に正の影響を与えていることが分かった。今回の分析結果は、先行研究と異なる部分があり、また、新しい発見があった。女性社員の管理職志向や仕事満足度におけるロールモデルの影響はその影響を重視する声がある一方、先行研究が少なく不十分である。そのため、今回示された分析結果は意義があると考える。

 

高部香帆「就業前モチベーションがリアリティ・ショックに与える影響及びリアリティ・ショック緩和に有効な支援について」

【アブストラクト】

本論文の目的は、「就業前モチベーションとRSの関係を明らかにすること」「RS緩和に有効な周囲の支援について明らかにすること」である。RS(リアリティ・ショック)とは、「組織参入前に形成された期待やイメージが組織参入後の現実と異なっていた場合に生じる心理現象で、新人の組織コミットメントや組織社会化にネガティブな影響を与え、早期離職を促進するもの」である。入社1年目から5年目の若手社員を対象に質問紙調査を行ったところ、「就業前モチベーションの高い若手社員は、RSを受けやすい。」「組織社会化において、上司の支援行動は正の影響を与えるが、同期の支援行動は影響を与えない」という結果となった。本論文から、「現実的な情報提供を行うインターンの必要性」「RS緩和において、上司は非常に重要な支援者であること」、「就業前モチベーションは周囲の支援行動を得やすくすることで、就業前モチベーションによるRSへの負の影響を相殺できる可能性があること」も明らかとなった。周囲の支援行動によるRSの緩和に着目した研究は見受けられないため、本論の研究結果はRSの研究において意義あるものといえるだろう。

  

塚田早織「経営革新促進行動を向上させる上司の支援行動と労働価値観に関する研究」

【アブストラクト】

本論文の目的は、人材の多様化が進む中で、どのような上司の支援が労働者の経営革新促進行動を高めるかを個人の労働価値観別に明らかにすることである。経営革新促進行動とは「組織の新製品や新生産方式の開発、または新規市場の開拓などの経営革新の推進に寄与する行動」である。この目的を達成するために、本論文では上司の支援行動として内省支援・業務支援・精神支援の3つ、労働価値観として内的価値志向・外的価値志向・愛他的価値志向の3つの尺度を用いて分析を行った。分析の結果、仕事を通して成長や達成感を得ることを重視する内的価値志向には業務に関する助言・指導といった業務支援、社会や同僚のために働くことを重視する愛他的価値志向には精神的な安らぎや励ましを与える精神支援を積極的に行うことにより経営革新促進行動が促されることが明らかになった。また、内的価値志向に精神支援を行うと経営革新促進行動が妨げられる可能性があることも示唆された。一方で、外的価値志向に有効な上司の支援行動についてはさらなる研究が求められる。

  

初田萠「副業解禁に向けた懸念点の考察」

【アブストラクト】

「働き方改革」が一般的になってきている中で「複業(副業)」に焦点を当てる。近年は大企業にも副業解禁されることが増え、副業の注目が増していることも統計から見て取れる。

しかし副業はその効果や懸念点が分析されることは少ないため、本論文では複業(副業)の目的やメリット、デメリットを企業側と個人側それぞれの視点から考察していく。

さらに、双方の認識のギャップからも考えられる複業の懸念点を考察する。

企業の複業の導入にはボトムアップ型の考え方が必要であるという点が挙げられた。

個人の複業活用には周囲に理解してもらうための説明責任が伴うことや、時間や業務領域、ツール・施設などの個人管理の難しさといったデメリットが挙げられた。

またギャップから考えられる懸念点には、個人の目的が企業に還元されるとは限らないことや、副業解禁によって副業すること自体が個人の目的になりうること、企業の認めやすい副業は取り組める従業員が限定されてしまうことが挙げられた。

  

松本尭碩「予期的社会化の観点から考察されるホワイトカラーと専門職のリアリティ・ショックに与える影響の差異について」

【アブストラクト】

近年、若年就業者の離職率の高さが問題となっている。厳しい就職活動を乗り越え、入社した会社を、彼らはなぜ自発的な理由により離職という道を選択するのだろうか。この問題に対して、本論文では大学教育という予期的社会化段階に着目し、RSに影響を与える要素は何なのか、若年就業者はどのような対象にRSを感受しているのか、若年就業者の現在の情緒的コミットメントと組織社会化の度合いはどの程度のものなのか、という点を明らかにすることを試みた。そこで、本論文では入社1年目から5年目の若年就業者から得られたデータを基に、ホワイトカラーと専門職を比較分析した。分析の結果、「ホワイトカラーと専門職という括りはRSに影響を与えない」、「RS発生の4つのパターンは、ホワイトカラーと専門職の間では有意な差が認められないが、いくつかの学部間においては認められる」「情緒的コミットメントと組織社会化は、ホワイトカラーと専門職という括りだけではなく、どの学部間においても有意な差が認めらない」ということが分かった。 

 

望月大夢「部下のワークモチベーションに影響を与えるリーダーシップについての研究―上司の年齢の観点から―」

【アブストラクト】

日本的雇用慣行の崩壊により、年功序列での昇進が見られなくなりつつある。そういった現状では年齢が逆転した状態の上司と部下という関係性が存在しうる。そのため本論文では、上司が年上か年下かによりリーダーシップの効果が部下のワークモチベーションにどのように影響があるのかを検討した。今回、2種類の年下上司の定義を用意した上で、リーダーシップの「配慮・構造づくり」とLMXの概念を用いて仮説を構築し、調査を行った。

分析の結果、実年齢による定義では、年上部下に対して忠誠のLMXが、年下部下に対しては職務能力のLMXがそれぞれ有効であると判明した。また、年下上司の定義によって、部下のワークモチベーションに有効なリーダーシップが異なることが明らかになった。しかしながら、リーダーシップに関して年齢の観点から研究した論文は少なく今後の更なる発展が望まれる。

 

山中涼平「現代日本における在宅勤務の普及要因」

【アブストラクト】

本論文は、「日本において、テレワークの普及が海外より遅れている」という社会的背景のもと、「テレワークの普及拡大の為に必要な組織の要素」を明らかにするものである。テレワークとは、一般に、ICT技術を駆使して場所時間にとらわれない柔軟ないくつかの働き方の総称であるが、その中でも特に在宅勤務に絞って研究を行った。論文の執筆にあたり、テレワークを実際に利用している学校のOBOGにインタビュー調査をし、その結果を先行研究と照らし合わせ、調査会社に依頼して複数人のデータを取り、仮説の立証を試みた。

調査の結果、テレワーク促進を試みる企業が実践すべきことを以下のようにまとめることができた。1密なコミュニケーションを必要としない部署での促進を試みること。2上司が率先して在宅勤務を利用、促進していくこと。3社員個々人の事情に合わせて促進方法を検討すること。の3点である。テレワークの促進に当たっては、制度の整備などに目が行きがちであるが、上司との関係性やコミュニケーションの量を考慮した促進がさらに必要であると考えられる。