岡田佑太「日本企業における育児休業の取得しやすさの知覚 と男性従業員の関係」
【アブストラクト】
近年、女性の社会進出が進むと同時に、女性が育児を理由にキャリアをあきらめるということは社会のジェンダー意識の変化とともに少しずつではあるが、以前と比べて無くなりつつある。それと同時に、男性がこれまでよりも家庭に関わることが求められるようになったが、男性が育児に参加することは企業の制度や職場風土などの点からいまだに難しいことがある。
しかしながら、男性の育児休業に関する先行研究は未だ非常に少なく、科学的知見の少ない中で男性の育児休業を強く支援することは、利益を追求していく企業にとって費用対効果の面でリスクがあり、なかなか踏み切りにくい面があると考えられる。その一方、育児休業を取得した男性が、休業中に会社への帰属意識が高まるというデータも存在し、育児休業と働く際の心理に関係がないとも言いきれない。
そこで、本論文は、日本の労働者を対象に育児休業の現状や育児休業に対する印象などを調査し、その上で、心理的安全性が育児休業の取得のしやすさに与える影響と育児休業の取りやすさが組織行動論に関する諸概念(組織コミットメント、ワーク・エンケージメント)に与える影響を男女ともに確認し、比較・検討した結果、以下の4点が明らかになった。
・25-34歳の会社員は、45-54歳の会社員に比べて、職場の育児休業取得者を否定的に捉えている
・心理的安全性が高い職場では、男性の従業員の育児休業の取得しやすさの知覚が向上する可能性がある
・育児休業を取得しやすいと知覚していることは、育児休業を取得する可能性がある男性従業員の組織コミットメントを向上させる可能性がある
・育児休業を取得しやすいと知覚していることは、育児休業を取得する可能性がある男性従業員のワーク・エンゲージメントに影響を及ぼさない
今回は「育児休業の取りやすさ」を単一の項目で測定したが、実際には様々な面において、育児休業の取りやすさが存在しているため、その尺度をより詳しく検討していく必要がある。
坂木杏奈「新入社員の組織適応に組織風土はどのように影響するのか」
【アブストラクト】
近年、少子高齢化による生産年齢人口の減少に伴い、若年労働者の早期戦力化が求められている。また、大卒の新卒3年以内の離職率は長年3割越えで推移しており、欠員補充の採用活動や研修は企業にとっても課題となっている。新入社員が早期に活躍できるために、若年就業者の早期離職を防ぐ目的でもスムーズな組織適応は不可欠である。
そこで本論文では、十分な研究が行われていない組織風土と組織適応の関係に注目し、組織風土である心理的安全性とぬるま湯組織がどのようにして組織適応に影響を及ぼすかについて入社1年から3年目の若年就業者を対象に調査を行った。2022年10月に調査会社を用いて140件のデータを収集し、重回帰分析を実施した結果、以下の5点が明らかになった。
・職場の心理的安全性が高い場合にはプロアクティブ行動が増加し、組織適応(知識的側面)が促進される
・職場の心理的安全性が高い場合には他者が促進されるが、他者サポートは組織適応(感情的側面)に有意な影響を及ぼさない
・組織適応(感情的側面)は職務要因である職務自律性と職務曖昧性によって抑制され、ストレッチ職務によって促進される
・ぬるま湯組織ではプロアクティブ行動が増加し、組織適応(知識的側面)が促進される
・ぬるま湯組織は職務満足感を高める
今回の調査では心理的安全性は組織適応を促進する行動を増加させ、ぬるま湯組織は組織適応を促進する行動を増加させる面と、直接的に組織適応を促進する面があることが分かった。しかし、ぬるま湯組織は一概に推奨できる風土とはいえず他のパフォーマンスに与える影響も調査する必要がある。また、近年新型コロナウイルス感染症の対応から拡大したテレワーク実施が組織適応に与える影響についても検討をする必要がある。
髙橋宙輝「プレッシャーが若手社員に与える影響―パフォーマンス、トランザクティブ・メモリー・システムとの関係―」
【アブストラクト】
技術の発展や社会の複雑化によって、多様なサービスが生まれている現代において、相互作用を活かした仕事におけるチーム、組織の運用方法についてますます注目されている。その中で問題となるのが、若手社員のパフォーマンスをどのように高めるのか、若手社員が感じる不安感やプレッシャーをそのように対処するのか、ということである。
そこで本稿では、日本での先行研究がまだ限られている「プレッシャー」に着目し、その影響が大きいと考える若手社員について、「パフォーマンス」や「トランザクティブ・メモリー・システム(以下ではTMSと記載する)」との関係を明らかにすることを目的として調査・分析を行った。2022年10月に調査会社を用いて180件のデータを収集し分析した結果、主に以下の4点が明らかになった。
・TMSは、若手社員のパフォーマンスに正の影響を与える。
・プレッシャーは、若手社員のパフォーマンスに正の影響を与える。
・過度なプレッシャーは、若手社員のパフォーマンスに有意な影響を及ぼさない。
・過度なプレッシャーは、TMSと若手社員のパフォーマンスとの関係を強める。
上記の結果から、組織において若手社員をマネジメントする際は、パフォーマンス向上のためにトランザクティブ・メモリー・システムの構築・機能を促進していくことが有効であると考える。また、プレッシャーについても、過度なプレッシャーはパフォーマンスに影響を与えないことから、若手社員に適度なプレッシャーを与えることが有効であると考える。
仲座弘人「職場におけるテレワークへの理解度がもたらす影響について」
【アブストラクト】
本論文ではテレワークに対する職場の理解の差が働く個人のワークエンゲージメントやプロアクティブ行動、創造性とどのようにして影響するか、質問紙調査を分析することで検討した。その結果、以下の4点が明らかになった。
・テレワークに対する職場の理解が深いほど、テレワークで働く個人のワークエンゲージメントは高い。
・ワークエンゲージメントの高まりは、テレワーク下における職場からの理解が深め、
プロアクティブ行動の促進や創造性の活性化などといった効果が期待できる。
・テレワークを行う頻度はワークエンゲージメントに影響を与える。
・テレワークの頻度は週3日程度が望ましい。
三國さくら「心理的安全性が女性の育児とキャリア形成の両立に与える影響―職場やパートナーの理解・協力に着目してー」
【アブストラクト】
近年、育児制度の普及によって育児と就業継続の両立が可能になりつつある一方で、育児とキャリア形成の両立はまだまだ難しい状況である。
そこで本論文では心理的安全性に着目し、女性の育児とキャリア形成の両立に与える影響について分析を行った。2022年11月に調査会社を用いて約180件のデータを収集し、重回帰分析を用いた結果、以下の6点が明らかになった。
・一般に、育児制度利用はその後のキャリア形成に負の影響を与える。
・職場の心理的安全性は、育児制度利用の際に得られる職場の理解・協力度に影響を及ぼさない。
・育児制度利用の際に得られる職場の理解・協力度の高さは、育児制度利用がキャリアに与える負の影響の大きさには影響を及ぼさないが、本人のキャリア自己効力感を高める。
・パートナーの理解・協力度は育児制度利用がキャリアに与える負の影響の大きさに影響を及ぼさないが、本人のキャリア自己効力感を高める。
・育児制度利用がキャリアに与える負の影響の大きさに対する、育児制度利用の際に得られる職場の理解・協力度とパートナーの理解・協力度に交互作用はない。
・本人のキャリア自己効力感に対する、育児制度利用の際に得られる職場の理解・協力度とパートナーの理解・協力度に交互作用はない。
本論では職場の心理的安全性が女性の育児とキャリア形成の両立にプラスの影響を及ぼすことは確認できなかったが、職場の理解・協力とパートナーの理解・協力がそれぞれ育児をしながら正社員として働く女性のキャリア自己効力感を高めることを明らかにすることができた。そこで今後はどのような理解・協力がキャリア自己効力感を高めるのかを検討する必要がある。