第6期生(2014年3月卒業)

 

○石見平太「就職活動を通した成長とリアリティショック対処行動―入社後の組織社会化に向けて―」
[アブストラクト]
近年、新入社員の早期離職が社会問題となっている。その原因のひとつに、入社前に想像した企業の姿と、入社した後に感じる組織の姿とのギャップ(リアリティショック)に遭遇し失望することが挙げられる。それを防ぐためにRJPと呼ばれる、「組織の本来の姿を求職者に伝える」採用方法も行われているが、未だリアリティショックに苦しむ社員が多いという現実がある。本論文では、このリアリティショックに遭遇しながらも活躍していける社員(リアリティショック対処行動がとれる社員)とはどのような要素を備えているかを考察する。
そこで私は、「就職活動を通しての成長」に着目し、仮説を立てた。検証の結果、「能動的な就職活動」を経験することで成長の実感を得ることができ、入社後にリアリティショックに遭遇しても、リアリティショック対処行動をとることができ、組織の一員としてなじんでいけるということが分かった。本来リアリティショックはネガティブなものとして捉えられるが、それをポジティブなものにするために必要な行動を、「就職活動を通しての成長」という概念に関連付けることができたのが、この論文の新たな知見であると考える。

○瓜生茉耶「労働価値観が仕事意欲の持続に与える影響」
[アブストラクト]
本研究の目的は、どのような労働価値観が仕事意欲を持続させるのかを明らかにすることである。なぜなら、約40年間もの職業生活を充実させる為には、労働価値観を基に、意欲を持って働き続けることが重要であるからだ。しかしながら、労働価値観の研究は乏しかった為、本研究を行うに至ったのである。
そこで、30歳以上の社会人を対象にしたアンケート調査の結果、職業能力の開発など「自分のため」を労働目的とした内的価値志向が直接的に、社会や職場への貢献など「人のため」を労働目的とした愛他的価値志向が組織コミットメントを介して間接的に、仕事意欲の持続に影響を与えることがわかった。一方、世間の50%以上の人が重視した、収入など外在的要因から生じる外的価値志向は、影響を与えないと明示された。
この結果は、世間が抱く労働価値観と職業生活に置いて重視すべき労働価値観のギャップ、更には内的価値志向や愛他的価値志向が職業生活をより充実させうることの証明を意味し、ここに本論の意義があると言える。

○小林典仁「ネガティブ/ポジティブ感情とモチベーションの関係に関する研究」
[アブストラクト]
ネガティブな感情を抱くことはモチベーションの向上につながるのだろうか。本論文は「ネガティブ感情は動機づけにプラスの影響を与えるのか」と問いを設定し、「ネガティブ感情がプラスの効果を発揮する条件」を明らかにすることを目的とするものである。
入社5年目までの若手社会人を対象とする質問紙調査により、職場において上司からのフィードバックにより感じたネガティブ感情またはポジティブ感情が、その後の動機づけへどのような影響を与えるかについて調査分析を行った。検証の結果、ネガティブ感情が動機づけにプラスの影響を与えることは示されなかったが、「怒り」の感情が職務満足感に対して正の影響を与えていることが判明した。そして、フィードバックの受け手がフィードバックを行う上司を信頼していることが、ネガティブ感情がプラスの効果を発揮する条件として判明した。

○常木未優「メンタリングにおける信頼―メンターのネットワークがメンティの能力向上に与える影響について」
[アブストラクト]
今、日本企業を支えてきた人材育成に転換期が訪れている。本論文は、アメリカ式人材教育制度であるメンタリングを活用し、日本企業に適した新たなメンタリングを生み出すという目的のために作成した。そのために、日本の集団主義に深く関わる概念である「信頼」を客観的に見つめなおし、今まで社会資本として考えられがちだった信頼を、一個体が持つ他者に対する認知の一種として定義しなおした。さらに近年メンタリングとの関係が示唆される「ソーシャル・ネットワーク」を導入することで、「集団」で育まれる「信頼」について考察することが必要である。
その結果生まれた「新人教育においてメンターに対する信頼はどのような要因によって生み出され、どのような事柄に影響を与えるのか」という問いに対して、本論文では「新人教育においてメンターに対する信頼は、メンティから見て『メンターの持つネットワーク上の中心性』と『メンター自身の能力』が高いことによって生み出され、メンティの目下の課題をこなすために必要な能力の向上に影響を与える」という回答を与えることができた。

○西山彩子「一時的集団の課題前操作が課題解決能力に与える影響―プロセス信念を高めるには―」
[アブストラクト]
会社などの組織において業務の生産性を上げるためには部門や組織を越えた協働が必要とされている。本論文では新しく形成されたアドホックグループがスムーズに活動していくために必要な要素を明らかにすることを目的としている。ここでは課題達成のために能力を投じようとするメンバーの集合信念である集合効力感の、下位概念とされているプロセス信念に焦点を当てている。プロセス信念はチームメンバーに対して抱く成果に至る過程の自信と期待に関する概念である。
プロセス信念が高まる過程として、自律性・類似性が集団実体性を高め、集団実体性がプロセス信念を高めると仮説を立てた。仮説を検証するために、実験集団に対して課題前のオリエンテーションフェーズで操作を行なった。自律性を高めるグループには規範を作らせ、類似性を高めるグループには共通点を列挙させた。結果として自律性の効果は立証されなかったが、共通点を列挙させることによって集団実体性を媒介してプロセス信念を高める過程までは明らかになった。このことはプロセス信念という新しい概念に大きな影響を与える要素を示唆するとともに、本国での集合効力感実験の方法の改善点を示すことができた。

○廣瀬春「動機の志向性と職場の相互依存性がモチベーションに与える影響」
[アブストラクト]
本論文は、「個人の動機づけの志向性が他者志向的であるか自己志向的であるかによって、職場における個人のモチベーションはどのような影響を受 けるのか」を明らかにするものである。動機づけの志向性は個人の特性のようなものであり、容易には変動しないため、職場の相互依存性を変化させる ことにより動機づけの志向性からのモチベーションへの影響を操作できるという仮説を構築し、調査分析を行った。
本論文でモチベーションの変数として取り上げたのは「達成動機」、「親和動機」、そして「組織的公正の認知」の3つである。調査分析結果は職場 の相互依存性が変化しても動機の志向性から「達成動機」への影響は変化しなかったが、「親和動機」および「組織的公正の認知」については一部影響 が見られた。動機の志向性からのモチベーションへの影響について、職場という環境に焦点をあてた研究は少ないため、本論文の結果は今後のモチベー ション論の研究にとって意義のあるものとなった。

○藤田一見「失敗時の無力感に影響する要因―「目標設定」の観点から―」
[アブストラクト]
本研究は、「ヒトの学習性無力感現象に対して、目標設定がどのように影響を及ぼすのか」ということに着目したものである。Seligman(1975)にはじまる学習性無力感理論は長い間盛んに研究されてきたが、心理学の分野にとどまっている。しかし、この学習性無力感現象を「モティベーション」という経営学の観点から見ることができたら、益々身近なものになり、個人の生活、部下や後輩のマネジメントなどに有益な知見が得られるのであろう。本研究では目標を設定し、被験者に失敗経験をさせ、質問紙調査にて学習性無力感現象への影響を調査した。その結果「具体的な」目標を持つことで学習性無力感現象に陥りにくくなるということが分かった。

○八木勇馬「リーダーの連帯懲罰行動における観察者の公正認知―組織的公正の観点から―」
[アブストラクト]
組織における公正さ、組織的公正さをマネジメントすることは、組織のメンバーのモチベーションをコントロールするために必要不可欠な要素である。本稿では、そのような組織的公正をマネジメントするうえで重要となる懲罰に関して、連帯的に懲罰されることへの従業員の公正認知を、2つのシナリオ質問紙調査を通して研究した。結果、以下のことがわかった。(1)リーダーの連帯懲罰行動は、個々の従業員が仕事への責任感を持ちやすい課題の相互依存性の高い状況において低い状況よりも観察者により公正だと認知されやすい。(2)リーダーの連帯懲罰行動に対する、観察者の不公平感を軽減するためには、違反者本人をより強く懲罰することが有効となる。(3)観察者は連帯懲罰に対して、個人懲罰よりも不公平感を感じやすく、それは課題の相互依存性の高い状況においても変わらない。連帯懲罰は研究の少ない懲罰においても未開拓な分野であるが、現実に連帯懲罰が適用されている状況が多数存在するため、さらなる研究が望まれる。

○山下紫織「プロアクティブ行動に影響を与える上司の支援及び個人の志向性に関する研究」
[アブストラクト]
組織はめまぐるしく変化する外部環境に適切に対処するために、組織に有益な効果をもたらす優秀な人材を育成しなければならない。本論文では、経営革新を促す一因である従業員のプロアクティブ行動に着目し、上司の支援及び部下の志向性とプロアクティブ行動との関係性を明らかにしようと試みた。上司の支援の種類に関しては、「上司の内省支援」「称賛言語」「方向決定言語」を取り上げ、部下の志向性に関しては「自己志向動機」「他者志向動機」を取り上げた。仮説を立て、調査を行った結果、「称賛言語と方向決定言語は同じ効果を持つ動機づけ言語として収束され、部下のプロアクティブ行動を促進する」「他者志向動機を持つ部下は、プロアクティブ行動を起こしやすい」「上司の内省支援は、直接プロアクティブ行動に影響を与えないが、部下の他者志向動機に正の影響を与え、間接的にプロアクティブ行動を促進させる」ということが明らかになった。
以上の結果により、プロアクティブ行動に影響を与える上司の具体的な行動と部下の志向性、及びこれら2つの相乗効果の存在を提示することができた。